第42話 入学式(本番)
『………』
「………」
体育館に居た全ての人視線が、俺と俺の目の前に倒れているおじさんに向けられている。
話し声は一切聞こえない。完全な沈黙が体育館を支配している。
……もしかして、ヤバい事しちゃった?
で、でも、俺は悪くないですよね? ここに倒れているおじさんが先に襲いかかってきたんですもん。
俺はただ、襲いかかってきたおじさんを迎撃しただけですから。
「おい! 何事だ!」
誰かが大声で叫んだ。
結構後ろの方から聞こえたような気がするが、ここからでも十分に聞こえる声量だった。
………近くにいた人の耳、大丈夫かな。
そんな事を考えていると、人混みを掻き分け1人の人物が目の前に現れた。
多分教師である男は、俺の前に倒れているおじさんを見ると、すぐに駆け寄り「だ、大丈夫か!? 医者をすぐに医者を呼べ!」と叫んでいた。
一目で分かる…………この人、俺の苦手なタイプの人間だわ。きっと「救急車ー!」とか大声で叫ぶ人――それは違うか。
俺はこの男性が注目されている間に逃げようとした。
だが――
「お、おい! そこのキミ! これはキミがやったのか!?」
失敗しました。
何故だ!? 完全にうまくいくと思ったのに。
まあそんな上手く行かないか。そして、俺は何もやっていない! スキルを使えば良かったな畜生!
「ん? 俺ですか? 違いますよ」
「そ、それでは何故、キミは逃げようとしたんだ?」
クソ、この男、想像以上に頭が回るな。
………めんどくせぇ。空回りすれば良かったものよ。
「逃げようとしていませんし俺じゃないですよ。そもそも、俺がやったという証拠はあるんですか?」
俺はこの場所から逃げるため、精一杯頭を捻る。
しかし、ずっと人のいない場所にいたんだ。コミュ力が高い訳がない。
今の言葉だって、犯人が言いそうな言葉だし。
「し、証拠は無いが………」
「それじゃあ、俺では無いですね。それじゃあ、俺は逃げ――ゴホンッ。急いでいるんで」
「あ、ちょ、待ちたまえ!」
俺は逃げるように (逃げた)人混みの中に入った。
ついでに『幻惑魔法』で姿も眩ました。
「お、追え! 奴を追え!」
何か後ろから聞こえたけど、きっと気のせいだよね! そうだよね! それに今度は『隠密』スキルだって全力で使っているんだ。
バレる訳が無い。
俺はこっそりとその場を後にし……たかったが、今は入学式の途中なので、列の後方へ移動した。
………入学式から締まらないねぇ。