第35話 吸血鬼の『長老』
「その後、その場所は様々な吸血鬼によって使われ、彼らは安全な生活を取り戻したとさ――さて、これでわかったか? 俺達は『吸血鬼』の敵ではないという事が」
長い話を終えた俺は、ローガに向かって問いかけた。
あー、喉枯れそう。
「……あ、ああ、わかった……今から『長老』を呼んでくる」
ローガはそう言うと、走ってどこかへ行った。
俺は暇潰しに『精霊眼』で、この場所の精霊の量を見ていた。
……まあ、一言で言うと、すげー多いよ。ここ。
やっぱ荒らされていない土地の精霊の量は凄いな。
俺の庭も見習ってもらいたいな。
「――待たせた。案内をするからついて来てくれ」
数分後、どこかからか帰ってきたローガはそう言うと、踵を返しとっとと歩いて行ってしまった。
俺達は大人げないと思いながら、ローガについていった。
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「其奴等が我々『吸血鬼』に伝わる『伝承』を知っていた者か?」
ローガについて行くと、すぐ近くの家の前で止まった。
そして、そこの家にいた老人の第一声がその言葉だった。
「ああ、そうだよ――キナガさん」
どうやら、『伝承』を知っていたからここに呼ばれたらしい。
まあ俺が『伝承』に出てくる人の一人ではありますけど。
あ、どうでもいいけど、俺の先ほどの物語にでてきた貴族は、もうこの世にいない。
というか、そもそもその貴族がいた国自体、この話の数年後に消滅してる。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏………自業自得が恥を知れ。
「………ふむ、ローガよ、外に出ておれ」
「何故だ? ここに俺がいてもいいだろ」
「これは長のお前にも聞かせることのできぬ事を話す場になる。だから、外におれ」
「………ったく。わかったよ」
ローガは不機嫌そうに『長老』の家から出た。
「さて、話をしようか……『救世の勇者』殿」
「……俺は『救世の勇者』なんかじゃねぇよ。『ただの一般人』だ」
「フム、嘘ですな。『ただの一般人』が隠れ里のことをしる事がございませんそ、何より、あなたの魔力の『色』は、とても珍しいですから見間違いはありませぬぞ」
キナガと呼ばれた男はローガが出ていくと、俺の正体を言い当ててきた。
ったく………勘のいいヤツは嫌いだ。
「はぁ……ああ、素直に認めよう。俺がお前等を助け、この場所を作った『救世の勇者』だよ」
「でしょうな。やはり、あなたは帰ってこられた」
キナガは感動でもしたのか、少し声が大きくなっている。
……正直、うるさい。
ハギも少々引いてるぞ。ただ表に出さないだけで。
「ここは俺の故郷でもなんでもねぇよ。お前等の場所だ」
「……そうですな。それは失礼……っと、どうぞ、お座りください」
哀しそうな表情をするキナガは、椅子に座るよう俺達に促した。
「それで、今回はどのようなご用で?」
椅子に座ると、キナガは俺に質問した。
「今回は、魔法陣の改造と『儀式』を行う」
「ほぅ、『儀式』そして『魔法陣の改造』ですか………それは、この少女のために?」
キナガはハギを指差した。
「ああ、こいつはハギって名前だ。あと、もう16になるぞ。十分に淑女だ」
頷きながら、俺はハギが少女と間違えらえて拗ねていたので、頭を少し撫でた。
すると、たちまち機嫌がよくなった。
「おお、それは失礼……それにしても、仲がよさそうですなぁ」
「まあな」
その後、謝罪を述べたキナガと少しだけ『儀式』等の事を話して、俺達は魔法陣の場所に行った。