第34話 ケイと吸血鬼の過去
むかしむかしある所に、『勇者』と呼ばれる少年がいました。
少年は人間を恨んでおりました。
それもそのはず。人間は少年を『勇者』として働かせるために、家族を友人を、彼の大切な者達を次々に奪ってきました。
それも全てを目の前で奪うという残虐な方法で。
少年は家族や友人が殺される姿など見たくもないので、渋々ながらも、『勇者』として働きました。
そんなある日の事。
『勇者』の少年も大きくなり青年となり、『勇者』としての仕事をしていた時のこと。
少年――否、青年に成長した彼は、今日も依頼をこなしていました。
………人間に復讐する機会を伺いながら。
その日届いた依頼は、『吸血鬼の捕縛』というものでした。
依頼者はその時代栄えていた貴族で、依頼の内容は『人数が減っている吸血鬼の保護、管理』的な内容でした。しかし、青年にはわかっていたのです。
人間は、保護したいのではなく、捕縛して道具のように利用しようとしている事を。
――吸血鬼に『吸血』されると、快感を得る。
そう言う噂があることも、知っていたのです。
彼は、その事を知り激怒した。
しかし、彼ももう何百という年月を生きた青年。そのまま感情に任せて暴れるという事はしませんでした。
ですがその時の青年は、そのまま人間狩りでもしてやろうかと思っていました。
だがしかし、彼は1つだけ心に決めていた事がありました。
それは――『復讐対象を絶対に楽には死なせない』という事でした。
彼は絶対に、楽に死なせる事を好みませんでした。
罪を償ってから死なせるのが、彼の人の殺し方でした。
彼は、依頼主達が絶望する顔を想像しながら『吸血鬼救出計画』をたてました。
それは誰もが、通常の人類には出来ない異常な計画であり、それは全ての吸血鬼を救うことのできる策でした。
次の日、依頼を受けるように見せかけ、『吸血鬼の集落』へ向かいました。
しかし、集落は警戒体制で中に入る事も出来なかったので、彼はこうに言いました。
『俺は人間の為に来たんじゃない。自分の為、復讐を成す為に来た。だから、村長と話をさせろ』
と。
吸血鬼達は警戒していたが、ただ1人だけ、彼を信じた人がいました。
それは集落の村長でした。
彼は村長に『これから人間共が起こすこと』を教え、村を出ました。
――数日後、また来る。
と言い残して。
■■■■
数日後、彼は急いで『集落』に来ました。
彼等が狙われているのを黙っている彼ではなかったから。
その日彼は、
――その人間共が、明日襲撃をしかける。だから、逃げろ。俺の教える場所に。そこなら、誰も干渉出来ないから。そこで会おう。
そして、彼はその場所――現在の吸血鬼の集落の場所を教え、すぐに消えました。
集落の者達は信じていなかったのですが、次の日の朝、集落に大勢の人間共が近づいているのを魔法で知り、急いで集落を出る準備をしました。
行き先は、『勇者』の青年が教えた場所。
罠かもしれない。と感じながら、大半の者達がその場所へ避難しました。
それは、そこ以外に、逃げ道が無いと判断したからですけど。
目的地の近くには、昨日の『勇者』の青年が近くの木に腰を掛けて吸血鬼達を待っていました。
数刻の時が経ち、ほぼ全員が避難したことを知ると『勇者』は吸血鬼達を『とある場所』へ案内しました。
その場所は、森の木々や霧で囲まれており、『勇者』について行かなければ、迷いそうな森。そんな森を勇者は軽々と散歩でもするかのように歩いており、目的地はそんな森を抜けた所にありました。
彼らは、『勇者』に感謝の念を感じていたが、『勇者』のいる方を向いても、『勇者』はいなかった。
しかし、1枚の置き手紙が、『吸血鬼の使っていた文字』で書かれていた。
――ここは、俺が作っておいた『村』だ。しかし、この霧は、永遠にこの場所に留める事はできない。だから、お前達の魔力でこの『村』を覆い隠す霧に魔力を補充してやってくれ。
魔力は数年に1度で十分、その魔力を補充するための魔法陣も『村』の中心に置いてきた
そして魔法陣には、もう1つの力がある。
その力を使えば、お前等に『血』を吸われても、吸われた者に快感はこない。
その力を使うか使わないかは、個人の自由だ。
と。
その言葉を見た吸血鬼達は、歓喜した。
もう、命を狙われなくてすむと。
しかし、『勇者』がどこにいるのか分からなかった彼等は『勇者』が来るまで、魔法陣を使わなかった。霧のための魔力も補充しなかった。
数十年後、『勇者』らしき人物が、『村』にやって来た。
……1人の少女を連れて。
村の者達は、『勇者』が帰ってきた事を村中に伝え、宴の準備だと言わんばかりの『祭』を開催しようとしていた。
しかし、『勇者』がこの場所に来たのには理由があった。
それは――『魔法陣を使わない事による霧の霧散』という魔方陣の効果を改造するためだった。
実は、数年に一度魔力を補充しなくても、霧を維持する方法はあったのだ。
それは、魔法陣の『力』を使う事だった。
魔法陣の効果は3つある。
1つ目が『村』を覆うような霧をその場に留め、『結界』の役割をさせる機能。
2つ目が『吸血』時の『感覚』の操作を強制的に教える術式。
3つ目は『吸血鬼』の『吸血』を特定の人物だけにする魔法だった。
1つ目の効果は、2つ目の『力』を使うか、外から魔力を補充するかで維持は可能だが、外からの補充は、人の手でやらなければいけないのだ。
しかし、『村』の者達は、一切魔法陣に触れなかった。
むしろ、『神聖な場所』となってしまい、そのせいで誰も使わなかったのである。
それを知った『勇者』は言った。
――お前等バカか? なんのために魔法陣を作ったんだと思ってんだよ。吸血鬼の為なんだぞ? だから、『神聖な場所』なんかにするな。きちんと使え
と。