第294話 第三学年一学期9 ハギ視点
貴族と模擬戦を行った翌日の午後、私はヒヨリちゃんと共にパルヴァ商会の応接間に座っていた。
対面するのはとっても美形な真っ白な肌の女性。短く切りそろえられた金髪や鋭い目付きが相まって、女性人気が高そうな気がする。
「お二人の教育係をさせていただきます。アドレルと申します」
「初めまして。日由と申します」
「初めまして。ハギ、です……」
緊張して途切れ途切れになったけど、簡単な自己紹介をした私とヒヨリちゃんは、アドレルさんから主な仕事の説明を受けた。
「お二人は学園でも実技が優秀とのことなので、主な仕事は巡回警備となります。まあ巡回と言っても基本は警備室で待機ですけどね」
これから警備室に案内します。と言ってアドレルさんは立ち上がる。
私とヒヨリちゃんも続いて立ち上がり、アドレルさんの後を追う。
来た時も思ったけど、内装が凄い豪華……カーペットが敷いてあるし、火災とか起きたら大変そう……なんて思っていたのが顔に出ていたのか、アドレルさんは口を開いた。
「ここの備品は全て、エルフの里で生産されたもので、火には強く、燃え広がりにくいんですよ」
「へぇ……あ、じゃない。そうなんですね」
「ふふっ。そう固くならなくていいですよ」
うぅ……緊張もバレてる。
そんな私を気遣ってか、隣を歩くヒヨリちゃんも心配してか小声で「大丈夫?」と聞いてくれた。うん。大丈夫じゃないけど大丈夫。
歩くこと暫し、アドレルさんは『警備待機室(女性)』と書かれた部屋の前で立ち止った。
ヒヨリちゃんが訪ねた。
「男女別れているんですか?」
「部屋の無駄遣いになるのでしたくはなかったのですが……色々あったんです」
そう語る口調はどこか憂いを帯びているような気がした。取り敢えず、聞くのはよしておこう。
アドレルさんは咳払いを一つして、説明を始めた。
「では──ここが警備室です。後でお配りしますが、警備員証明のカードを門番の警邏に見せたら、すぐにこの部屋に来るように」
「「はい」」
そう説明して、アドレルさんはドアを開けた。
部屋は結構広くて、左右に数えるのも億劫になるくらいロッカーがある。出入り口前は待機場所としてか、大きなテーブルと沢山の背もたれの無い木の椅子。
そして丁度、大きなテーブルを吹いている女性が反応した。
「お疲れ様ー」
「あ、アドレルさん。お疲れ様です……わ、もしかして連れてるのって」
「お疲れ様エルヴェ。紹介するわ。冒険者ギルドから傭兵として派遣されたヒヨリさんとハギさん」
「よろしくお願いします!」
「お願いします!」
「ヒヨリちゃんとハギちゃんね~。私はエルヴェ。雑用係兼警備員をしてる17歳です☆」
変なポーズまでとってエルヴェさんは自己紹介をしてくれた。17歳って……私達と殆ど変わらないのに働いてるんだ。凄い。
そう感心していると、アドレルさんが額に手を当てて大きくため息を吐いた。
「エルヴェ。君は一応副隊長だろう? そして雑用係はない。謂れのない風評被害を出そうとしないでくれ」
「「え、ふ、副隊長!?」」
17歳で!? 私とヒヨリちゃんが驚きのあまり顔を見合わせていると、アドレルさんは「それも違うぞ」と訂正してきた。
「あくまで、ここに来て17年、だ。そもそもエルヴェはにひゃ──」
「なぁにを言おうとしてるのかしら~☆」
突然、エルヴェさんがアドレルさんを拘束して無理矢理口を塞いだ。
けれど……うん。大体察しました。
「17歳よ? そして、私のことは『お姉ちゃん』と呼ぶように☆」
「「は、はい」」
「ダメ~。もっと親しく『わかったよ。お姉ちゃん』って! ハイ、復唱~」
「「わかったよ。お姉ちゃん」」
「よく出来ました~」
エルヴェさんがヒヨリちゃん、私の順で頭を撫でて──突然止まった。
「……」
「え、えーっと……何か?」
「……」
ゴミでもついてたかな? と思ったら、無言で勢いよく押し倒されました。
「うわわわっ。え、エルヴェさん!?」
「ハギちゃん。貴女……」
じいっと瞳をガン見される。あれ、なんだか魔力が動いてるけど……あ、もしかして『鑑定魔法』!? 偽装がバレた!?
「貴女も精霊に愛されているのね~!」
そう言って、私に抱き着いた。
「……へ?」
取り敢えず……バレなくてよかったのかな?
姉が勝手に設定を足しました。たぶんよくぎっくり腰になる17歳です。
にしても暴れるなこの人……あ、余談ですがアドレルとエルヴェの名前の由来は同じです。