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100回目の転生で精霊になりました  作者: 束白心吏
第四章 精霊達の青春………?
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第291話 第三学年一学期6 ハギ視点

 模擬戦場に入ったけど、貴族の姿は……なかった。待たせて「不敬だ!」って難癖つけられるよりはマシかな。

 暫くして貴族様が入って来た。皺ひとつない新品同様な制服と、その真新しさと対比するような禍々しい気配を醸し出す長剣を腰に携えて。


「よく逃げずにやってきたな」

「……」


 逃げたら強制的に引っこ抜く癖に……と思っていることを悟らせないよう、平常心に努める。

 観衆は私が想像していた以上に多い。冒険者が大半だけど、ある一角は貴族らしき人達が陣取っていた。

 私は会話する気が起きなかったので、審判に視線を向ける。冒険者ギルドの男性職員らしいけど……事務仕事がメインなのか、ひ弱な感じだ。


「あ、改めてルールの説明をします。

 勝負は剣を使った模擬戦です。魔法は禁止とさせていただきます。使用が確認された場合は即座に模擬戦は中止。違反者の負けとなります」


 問題ありませんね? と問われたので、私は頷く。


「なおこの勝負の勝者は敗者に一つだけ、絶対順守の命令権を行使することが出来ます。よろしいですね?」


 男性職員さんがそう言い終わると同時に、私達の目の前には魔法で出来た紙が一枚現れる。『契約魔法』で絶対に反故されないようする為の保険なのだろう。

 粗方目を通して私は紙に魔力を込める。これで私は契約に同意したことになった。

 相手も同意したのだろう。その手元に契約魔法の紙はなかった。


「では、両者合意を得ましたので、決闘開始の合図をさせていただきます──始め!」


 合図と同時に相手は剣を抜いた。禍々しい雰囲気を持つ魔剣……されど恐怖心は皆無だった。

 私も剣を構える。


「ハッ! たかが木剣で俺の魔剣を防げる気か!」


 馬鹿にしたような笑みを浮かべて、相手は突撃してくる。動きが単調だし、大きい。これがケイやライアお姉ちゃんとの模擬戦なら即駄目出しされそうな、典型的な悪い見本の一撃。私はそれを木剣で受け流す。

 誰も防ぐとは言ってないからね。真正面から受けたら折れるのは確定だし。

 それから幾度も切りかかってきたけど……正直、拙い剣技だなと思う。魔法の方が得意なんじゃないかな。まあ魔法を解禁したら解禁したで、私が勝っちゃう訳だけど。


「なんだ! 防戦一方か? さっさと降参したらどうだ!」

「別に攻めあぐねてるわけじゃないんだけどなぁ」


 売り言葉に買い言葉みたいな形で、私は攻勢に出る。

 その瞬間、一瞬だけ欲にまみれた視線を感じたけど……一方的に弱いだのなんだのと言われて平静でいられるほど大人じゃないから、私。

 何度も切りかかっていったけど、不思議な程に当たらない。


「(『予知』『瞬間強化』『思考加速』……こっちに魔法的なモノが向けられてる感じはないから、『模倣』の魔法は付与されてないかな? 後は『身体強化』と『鋭利化』もありそう)」


 魔剣と打ち合った感覚から、魔剣に付与されているだろう魔法を予測していく。『鑑定魔法』、先に使っておけばよかったかも。

 更に打ち合うこと暫し。攻めあぐねながらも少しずつ攻撃を続けていた私だけど、遂に恐れていた……訳でもないけど、予期されていた事態に陥った。

 木剣が、折れたのだ。

 これを期と言わんばかりに、相手は攻めて来る。まあ剣がない分回避もしやすいし、蹴りも時折飛んできたけど、ならばと私も腹に一撃蹴りをいれられたからいいけど。


「弱いな。所詮は学年主席と言っても、魔法がなければこの程度か! 剣も運悪くなくなったようだしな」

「弱い弱い言ってるけど、そっちの攻撃ほぼ躱してるし」

「躱すしか能がない癖によく吠えるな。まあ魔法師崩れのアレといたんだ。そうなってしまったのはアイツのせいだろうな」


 嘲笑うように言う相手に、若干だけどカチンときた。


「……魔法師崩れ? 誰のことさ」

「決まってるだろう? クロヤだよクロヤ。魔力が多いからって主席で入学して、結局は病気で退学した──っ!」


 言い切らせる前に、私は一足で懐に潜り、汚い音の発信源を潰すように片手で絞める。


「──カハッ、ま、魔法を……使った……な!」

「は? この程度で使う訳ないじゃん」


 実際、審判は私を止めていない。魔力が暴走して追い風になってくれたけど……魔法とはお世辞にも言えない代物だからね。

 それに──


「そっちだってずっと魔法使ってるじゃん」

「──!」

「えーっと『予知』と『身体強化』と『隠蔽』と……あと『鋭利化』と『思考加速』『瞬間強化』当たりかな? 魔剣モドキに付与されてるの」

「!?」


 あ、この反応当たりかな。まあ審判には聞こえないよう『偽装』スキルを使ったから違反にはされないだろうけど……というかバレないと思ってたんだ。凄い自信だね。


「そういえば敗北条件ってそこまで詰めてなかったよね」

「……な、何を……っ、するっ……気だっ」


 相手の表情に恐怖の色が宿る。別に殺しはしないけど……ねぇ。


「取り敢えず殴らせろ!」


 私は相手が降参の意を示す前に、首を絞めてる方とは逆の手で、顔面をグーで殴った。

 ああごめんよ貴族氏。君の名前、考えたのに出す予定がなくなってしまった……本当に申し訳ない。

 あ、名前は『ダスラ・アスユ』でした。

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