第282話 第二学年三学期20
──そもそも『神敵』というのは、女神が天啓によって存在を知らされる異次元の存在の総称だ。
神々の力の及ばない異界からの来訪者。侵略者と言うのが適切か。
これらを倒すために女神は『勇者』をこの世界に呼び寄せる。それに人的な力は伴わないんだが、今回の召喚は別だ。
神の力が伴わない、とても不完全な召喚だったんだ。
そりゃそうだ。あくまで魔王は魔族の長──それこそ魔族の国でも『王国』に位置する国の長でしかないのだから。
しかしながら召喚に必要な条件は満たしていた。これ故に神は『勇者』として何者かを使わす義務がかせられた。それを履行するために使わされたのが今でも語り草になっている『反逆の勇者』──俺だ。
一応これでも女神とは口喧嘩するくらいの仲だったからな。多少の説明を受けてヒトの国の中枢に呼ばれた俺は早速魔族討伐の任に就き、魔族領を単独行動していた。
■■■■
「啓も魔族を殺して回ったのか?」
「いや? 殺す必要もないからな。適当にヒト側に幻覚かけて対処してた」
「……その時点で反逆って言われて仕方ない気がする」
「バレなきゃ利敵行為も反逆にゃならん」
「ひっでぇ……」
うるせぇ。そもそも殺せとは言われてないから命令違反でもなかったからな。
「まあ見かけだけは順調に進軍していたわけだから、俺は着々と信用を得て、まあ貴族との関りも作られていってな。その中には物好きな貴族──まあ端的に言えば魔族を欲しがる貴族って奴らが出て来たんだ」
「そりゃあ……予想はつくな」
「結構。それに不敗ってのもヒトの欲望の際限なさに拍車をかけたんだろうな。一部では魔族を誘拐してくる輩もでてきた」
「……教会的にはどうなん?」
「その教会でも権威が及びにくいところでの犯行だ。良心に訴えても意味はなかったってさ」
「ひとのよくぼうってすげー」
棒読みで言うなっての……まあわかるけど。
「そんな環境だ。お前ならわかると思うが……」
「ヒトの所業に嫌気が指して魔王側についた?」
「そういうこと」
まあ実態を隠そうと色々手回しはしていたそうで、気づいた時には結構な惨状だったが……。
だからこそ、ヒトを見限った。
「まあ最初から魔王を悪とは思ってもなかったからな。嫌気が指して停戦交渉しようと魔王城に単身で乗り込んだ」
「単身で侵入できるのか魔王城」
「意外と余裕だったぞ? 二回目は無理だったが……」
「やるなよ。交渉しに行ったんだから正面から入れよ」
「兵士が難癖つけてくるから嫌だったんだよ」
「じゃあ仕方ない……にはならん」
「なってくれ。全く、誰のおかげで警備が厳重になったと思ってるのやら」
「お前の自業自得だったの!?」
そらお前……信用を得るのに一番手っ取り早いのは情報提供だったし仕方ないよな? まあそんな裏話はさておき。
「話は戻すが、魔王は理性的な人物だった。最初こそめっちゃ驚いてたけど、話せばわかる奴だった」
「それ十割お前のせいだよな……でもじゃあすぐに停戦は出来たのか?」
「無理無理。だってなんか魔王の愛娘が攫われたらしくて怒り心頭だったもん」
「まさかの展開!? ……で、どうしたんだ?」
「そりゃ助けにいくに決まってんだろ……」
話を続けようと口を開きかけたとき、また少しだけハギが袖を引いてきた。
顔を向ければ、少しジト目を向けられた……そういや、こっからはお前も出て来るか。あんまいい記憶じゃなかったし積極的には話題にあがらなかったな。
「ちなみにその時のヒトの軍、結構混乱してたそうだぜ? 敗北もしたそうだし……見てはないけど後で知った時めっちゃ笑った」
「そりゃ最高じゃん……記録にないけど」
消したんだろ。一応聖戦だし。教会の威厳が云々の理由で。
そしてまた、俺は当時を鮮明に思いだそうと意識を更に記憶の奥底へと沈ませた。
人間、ストレスから解放されると体調崩すんですよ(デタラメ)。遅れてすいません。