第277話 第二学年三学期15
「ねえ、どうせなら着せてよ」
「何がどうせになるのかはさておき帯を選んでからな……その上からでいいか?」
「寒いの嫌だしそれでいいよ。あ、帯はこの紫っぽいピンクのやつで。紐はこれでいいや」
以前来た二階の部屋に入って早速、ハギは帯を決めて俺に渡してきた。
確かに見えない部分だがもう少し考えろハギ……というかまだ答えてもないのだが。
「袖通すくらいは自分でしろよな? あと少し手伝ってくれ」
「うん」
ハギは頷いて濃紺地で桔梗の柄が入った単に袖を通した。
「じゃあちと目の前に立って……よし。じゃあこの紐を後ろに回して俺にくれ」
「はーい」
襟を合わせてから、ハギから渡されたものとは別の紐――通称腰紐を渡す。
これをハギは器用に右手を下から後ろに回して、後ろで左手に紐を持ちかえて一周させた。
「できたよ」
「じゃあちょっと位置を調整してもらってもいいか? 腰骨の辺りでなんだが」
「んー……これ難しいね。これでいい?」
「オッケー。ちょっと抑えていてくれ」
ハギに紐を固定してもらっている間に腰紐を縛る。そこまできつくはしないが、それでもそう易々と解けることはないようしっかりとしめる。そして単の丈を整えていく。
「そういえばケイは着ないの?」
「今の時期は着たくもないっての」
会話しながら、俺は腰紐を固定する為の伊達締めを二本使う。これで安定したので帯を結ぶ。
「これ、一人でやろうとしても出来なかった自信がある」
「普段使いするなら一人で着付けられないとな──さて、ちょっとこのまんま持っていてくれ。んでもって失礼するぞ」
「え、ひゃっ──」
ハギに手先を固定してもらい、一つ断って帯を一周させる為に密着する。
ヤバい。何がって女性らしいニオイが鼻孔をくすぐってきて、嫌でもハギを意識してしまうのが、今は辛い。普段なら問題ないんだけど……しっかりしろ俺。
喝を入れて、無心で二周ほど帯をまわし、離れる。
……なんか、ハギを女性として意識するようになってから、本当おかしくなってきてる気がする。というか心臓がウザい。なんかさっきまであったハギのニオイが残っているような気もするし……ヤバい。思考が変態チックになってきた。
気を取り直し、後は仕上げに蝶々結びをして終わりだ。
「じゃあ、これを後ろに回すぞ」
「そ、それは私がやるよっ!」
ハギはそう言っていそいそと帯を回す。
……あー、左回しじゃないっての。
「単の襟が乱れてるぞ。ほれ、ちょっと大人しくしててみ」
ハギに有無を言わせずに襟を整え、時計回りに帯を回す。
そういや日本人って時計回り好きだよな……って、時計回りってのも最近は死語とか拓哉が言っていたな。なんでもデジタルの時計しか見たことのない世代がいるとかなんとか……なんか悲しいな。
「……っ」
「よし。出来た──っと、スマン」
見ていられなくってついつい手を出してしまったが、我に返った時には、もう何かダメだった。ハギも意識しているのか耳まで真っ赤だし……ヤバい。俺も耳まで暑くなってきた。
冬なんだけどなあ……なんて現実逃避でこの何とも言えない雰囲気からの脱却を求めたが、どうも出来そうになく、この雰囲気がどうにかなるまで、結構時間がかかった。
短くてすいません……期末考査が迫ってて時間ないんですよ(言い訳)。あと着付けね。これも色々勉強したんです。それで時間がまたかかった。
そしてなんで野郎の葛藤をこうまで書いてるんでしょうね?楽しいからいいですけど。