表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100回目の転生で精霊になりました  作者: 束白心吏
第四章 精霊達の青春………?
280/318

第276話 第二学年三学期14

「思ったけどさ……どーしてホワイトデーまであんの?」


 ホワイトデー当日の昼休みの教室の一角で、ちょうど昼飯を食べ終えた拓哉がそんなことを聞いてきた。


「そりゃ過去の日本人勇者が流行らせたからだな」

「……ちなみに今の文化のどれくらいが日本人勇者発祥なん?」

「祝日と祭りと正月、クリスマス、バレンタイン、衣服の文化、ボードゲームの文化、加工技術、日付の文化や学問……」

「あー、もういい。わかった大半だな」

「魔法と文字は完全にこっちのもんだな」

「そりゃそうだろ」


 拓哉は呆れた様子で俺の机に頭を置いてブツブツと何かを呟きだした。耳をすましてみると、惚気というか朝からひと悶着あったことが聞こえたので聞かなかったことにした。

 それにしても、本当に色々な文化が輸入されてんだな。まあ独自に進化したりしてるしいいけど。


「……そういやさ、和服なんてこっちの世界にもあるのな」

「獣人の伝統衣装としてな」

「人間にはないのか?」

「ない。というか諸事情あって人族と魔人族には適してない」

「諸事情……尻尾か」

「基本尻尾は帯にしまうぞ」


 更に言葉を続けようとしたタイミングでチャイムが鳴った。

 優等生である拓哉は唸りながらも弁当を片付け、次の時間の準備を始める。


「食べる前に出しておきゃあいいのに」

「それ、毎度そうしようと思ってるけど忘れるんだよな……あれ、教科書どこだ?」

「……」


 詰め込みすぎなんだよなぁ。

 なんて思っていたら、ハギがトントンと肩を指でつついた。


「どした?」

「えーと、さっきの話が気になって?」

「疑問符つけんな。それに面白い話じゃねぇし語り尽くすにゃ時間が足りないから本を読みなさい」

「あ、本にまとめてあるんですね」


 意外にも、ハギと共にいた五十嵐が食いついた。まあオタクな部分は前からあったし、当然なのかもしれないが。外見も文学少女って感じだし。


「図書館にもあるんじゃないか? 歴史か芸術の辺りに……あ、図書分類法は日本で多く使われている十進分類法な」

「そこも輸入されてるんですね……」


 生活の大半の技術や知恵が地球産だが? まあそれは自分の目で確かめてもらうとして──


「私はケイに教わりたいなぁ……」

「帰ったらな」


 ──和服の文化と一緒にな。


■■■■


「これが(ひとえ)?」

「そう。今年のバレンタインのお返しのな」

「一枚の布から作ったっていう?」

「お前の選んだ桔梗の反物からな」


 放課後、帰って早々ハギからの催促で俺はお返しである単を応接間でハギに渡した。

 ハギは間近で見るのは初めてなのだろう単を広げて、時折感嘆の声をあげながら見ている。これは気に入ったってことかね?


「おー……ところで単って夏物だよな」

「そうだな。そしてお前はここで油売ってていいのか」

「バレンタインのうちに返したが?」

「お前……商業戦略にくらい乗ってやれよ」

「この世界じゃ勇者が輸入した文化なんだろ? あくまで商業はそれに乗っかっただけと推理する」


 大当たりである。導入した勇者、商業戦略であること一切知らなかったし。

 そんなわけで商戦も何もないのだが、それはこの世界の半分以上の祝日に適応される。


「そういや昼休みに和服が人に普及しなかった理由知りたがってたよな。それがコレだよ」

「……いや、実物見せられてコレとだけ言われてもわからんが?」

「言い方が悪かったな。獣人の和服は、単だけなんだよ」

「は?」


 拓哉が眉間に皺を寄せて聞き返してきた。

 この返しは俺が急に話題を変えたことではなく、単しかないという点に対しての「は?」だろう。


「え、袷は?」

「ないぞ? 本当にこれだけなんだ」

「……」


 拓哉は驚きのあまりかフリーズしてしまった。そんな拓哉の隣で、何かがわかった様子で五十嵐が口をひらいた。


「もしかして、冬毛ですか?」

「おー、正解」


 ちなみに獣人、夏場は素肌が見えるくらい毛の薄い個体でも冬毛は結構モサモサらしい。現物見たことない小耳に挟んだ話でしかないから。


「――なるほど。蒸れるのか」

「獣人は動くし体温が高いからなー。それに大きさもある程度調整できるから長く使える。動きやすくも出来るからな」

「それで獣人に和服文化が定着したのか」


 復活した拓哉が納得した様子で頷いた。


「だから八掛も袷もないのか」

「これは更に『つけたり外したりするのが面倒』ってのが理由に入るぞ」

「なにそれめっちゃ親近感わくんだけど」


 湧くな。

 そんな話に盛り上がっていると、横から冷たい視線が飛んできた。言わずもがな。ハギだ。


「……スマン。主役おいてけぼりで盛り上がってしまった」

「いいって……ところでケイ、着ていい?」

「その前に帯を選ぼうな」

「帯?」

「どうせ着るならオシャレな物のがいいだろ?」

「……ケイの口からオシャレなんて言葉がでるなんて意外」


 失礼にも程がある。そして拓哉と五十嵐、園部も頷くな。

 それからもう暫く雑談に興じ、俺は車椅子をハギに押されて二階へと向かった。

 なお拓哉達は雑談してから帰った。最後に「若い二人で楽しめよ」と言い残して。

 袷のなくなった更なる諸事情:私が柄を考えるのが面倒になったから。

 次回に続きます。何か作者が言うのもアレですがキャラ崩壊してたら笑って許して(今さらと言われると痛いですが)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ