第273話 第二学年三学期11
「──着物贈れば?」
昼休みの教室で拓哉からその台詞を聞いたとき、俺の中で衝撃が走った。青天の霹靂とはこのことか。
確かに着物なら作れる。一枚の反物から作ることができるし、その反物だって我が家にはある。
「てか、反物選びを二人でやればそれでも若干のデートみたいなものじゃん?」
「拓哉お前天才かよ」
「啓の恋愛経験が乏しすぎるだけじゃないか?」
それは言えてるので否定はしなかった。
とはいえ──
「反物選びか……バレるよな」
「ははは。どうせ一枚しか選ばないんだ。着物とは思うまい」
「そうかぁ?」
「ハギさんは獣人国行った時に着物見てるんだろ? あれが一枚の布からできてるとは夢にも思わんって」
「あー、それもそうだな」
俺も実物見たときは本の内容疑ったもんなぁ……。
そうと決まれば今日の内にでも誘うことにしよう。誘うには……そうだな。下校時にでも言おう。
決断すると共に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
■■■■
「──布選び?」
「おう。お返しに使うんだよ」
「何か作るの?」
「そうだが……何を作るかまでは教えないぞ?」
察しがいいなぁ……誰に似たのやら。
帰り道、拓哉達と別れてすぐ、俺はハギと一緒に反物を選ぼうと誘った。
ハギは何を作るか予想せんと首を捻っていたようだが、ピンとくるものはなかったようで「わかった」とだけ返事をした。
「じゃあ、早速今夜は大丈夫か?」
「今夜? 今からじゃなくて?」
「帰ってすぐでもいいぞ」
今日中であればな。
それを聞いたハギはまた首を捻った。何かおかしなことを……っと、そういえば忘れていた。
「ちなみに、家の中にあるからそっからな」
「え!? お店じゃないの!?」
だったら納得だけど。と小声で呟いて、ハギはまた考え出す。
あまり悩んでいるようなら、夕食後にでも俺からもう一度誘うことにしよう。なんて考えながら車椅子を押され、家までもう少しというところでハギは口を開いた。
「じゃあ、お風呂入ってからで」
「了解……ライアには俺から言っておく」
「? お姉ちゃんも着いてくるんじゃないの?」
「いや? どうせなら二人で選ぼうぜ。お前の為に俺が作るわけだし」
「──っ!!」
そう言うと何故かハギは地団駄を踏んだ。
「ど、どうしたんだ急に?」
「ケイが突然そういうこと言うからじゃん!」
「はぁ?」
何か言ったかね? 俺としては普通のことを言ったまでだが……そもそも会話苦手だから普通もおかしいのかもれない。盲点だった。
「すまん。ライアも一緒がいいか?」
「ケイと二人でいいです! ケイの鈍感! ……けど、アリガト」
「??」
感謝される謂れなくね? けどまあいいのか。うん……。
……人の心は難しいな。
なお帰宅後すぐライアにその旨を伝えたところ「デートですね」と返ってきた。それでまたハギは顔を赤くしていたのだが……その姿がめちゃくちゃ可愛かったとだけ記す。
私は思った「何故私はコイツの惚気を書いてるの?」と。
まあいいです。偶々着物の作られ方には興味を持ってたし調べる良い機会になりました!
あ、ガチで着物は一枚の反物から作られます。気になる方は『着物 一枚の布』と調べてください (一応簡単な作り方は次の次くらいで紹介しますが作者は作ったことないので想像で書きます。雑だと思いますがご容赦ください)。日本人の勿体ない精神なんですかね……こういう面白いネタがあるから民俗学に惹かれるんですよねぇ。