第262話 第二学年冬季休暇10
「急げ急げ! てか俺は置いてっていいから先帰ってろって!」
「ケイ! 怒られるときは私一緒がいいな!」
「ふざけてないで割とガチで行けって」
カラカラと夜も更けてきた王都の一角に丸くて硬いものが勢いよく転がる音が響く。確実に騒音被害になるが、なりふり構っていられるほどの余裕はない。
「あーあ……予想してたが絶対ご立腹だよな」
「ライアお姉ちゃん、そういうのとても嫌いそうだもんね」
事実嫌いだよ。めっちゃくちゃ効率とか好きだし、昔の酷い時は秒単位でスケジュール組んでたからなぁ……。
今ではマシになったものの、それでもやはり時間にルーズなのは嫌がる質は健在なので十中八九怒られるのは想定内。ただしその影響でハギまで夕食抜きにされちゃあ困る。アイツ、基本身内には甘いけどその分厳しい時は厳しいんだ。
割と急いだお陰か、冒険者ギルドから出て数分で我が家が見えてきた。俺達はさっさと玄関に入る。
しかし驚くことに恐怖していたライアの影はどこにもなく、寧ろ幻聴のように「おかえりなさいませ」と期限のよさそうな声が聞こえてきた。
「ライアお姉ちゃんただいま!」
「おかえりなさいハギ。ああ、その眼鏡をマスターに買って貰ったのですね」
「うん! それと武器も一通り買ってもらえたんだ!」
「ほうほう。それはよかっ──武器?」
「うん! 武器!」
途端、何故か俺は悪寒を感じた。ライアはハギと話している。こちらに目もくれる様子もない。しかしながら後々シメられる未来が脳裏をよぎってしかたない。
「そのあと冒険者ギルドでずっと『錬成魔法』の練習が出来たんだ~」
「どれくらいやっていたのです?」
「えーっと、お昼過ぎからさっきまで」
「…………ほう」
悪寒がした。さっきよりも明確に。
というかこれ、殺意マシマシじゃね?
ハギも気づいた──というよりライアの地雷を踏んだと悟った──のか、どこか冷や汗がダラダラと流れてるようにも見えた。
「楽しかったですか?」
「うん! とても充実してたよ!」
「……そうですか」
ライアはそれだけ言って、ハギに手を洗ってくるように促した。
そしてハギが洗面所に入った途端、大きなため息を一つ吐いた。
「……充実と楽しいは似て非なるものだと思われますが」
「若さだよ。後何年と生きていれば、自然とその違いもわかってくるさ」
「そうだといいですが……」
ライアはとても心配そうに走っていった方向を見る。
「私は、とてもハギが不憫で仕方ないのです」
「……」
「過去に囚われ、呪われたハギが」
「……そうだな」
俺はライアの言葉に、ただ相槌を打つことしか出来なかった。
「まあ、主人には負けますけど」
「そりゃそうだ」
そう簡単に負けてたまるかっての。不憫さなら同等かそれ以上だわ。
ライアは俺の返事に笑みをこぼした。
「それにしても──半日は冒険者ギルドにいたんですか」
「……ハギが行きたいと言ったからだぞ?」
「それくらいはわかりますよ」
呆れた様子でライアは言う。たぶん大体のルートはわかったのだろう。
「これは思った以上に苦戦しそうです」
次いでライアはそう小声で呟いた。
デート回、完。
経った一日の事に十話かけて内容これとか……まあ二人で出掛けてたからデートだよね (暴論)とデートであるとは頑なに訴えます。次回どうしよ……三学期にいっちゃうか。
新作投稿しました。タイトルは『思い出せないボクとキミ』。
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よろしければお読みくだせぇ。