第260話 第二学年冬季休暇8
「錬成──」
ハギが武器を片手に『錬成』の魔法を発動させる。
本来なら魔法を使った時点で──街中での魔法の使用は違法なため──止めさせるのだが、ここは冒険者ギルドの地下にある模擬戦場。王都の景観を損なわないようにと昔、ギロティより以前のギルマスが、無駄な配慮をして作らせた場所だ。ダンジョン同様に無法地帯となっているため、いくら魔法を使おうが何ら問題ない。
まあダンジョンと違って殺傷は厳禁だが。
「……にしても相変わらず、お前ンとこの弟子ってのは異質だよなァ」
「そうか?」
作った剣を見て検分するハギから視線を外し、俺は横で監督をしているギロティへと向ける。
「たまに『錬成』で武器を創造しようって奴はいるぜ。無や土から剣が出来りゃあ安上がりなことこの上ねぇからな。けど普通、皆壁にぶつかって諦める」
「出来て余程魔法の才能に溢れた平民冒険者くらいだろうよ」
「お前みたいな、な」
ギロティがニヤリと笑う。
俺の場合は無駄に何百年と生きてやっと魔法のコツを掴んだから違うと思うが……今は関係ないし訂正するのも面倒なので何も言わずに続きを待つ。
「それに、錬成魔法で攻撃しようなんてまず思い付かねぇ」
「ハギにはそれが出来るだけの素質があるからな」
「……お前にそう言わしめるってことは、本当なんだろうな」
「ホントも本当だ。贔屓目抜きにしてもな」
元々才能はあるのだ。前世も魔法に対して高い素質を持つ存在だったが故かはわからないが、技能として表示されるくらい魔法に対する適性は高かった。故に俺なんて軽々超える魔法を使えるようになるだろうし、何より勘に冴えているのだ。
古来より、優秀な魔法使いは勘がいいのだ。
「ねぇケイ! これどう?」
「んー? ちょっと待ってな……そんじゃ行ってくる」
「おうよ」
オリジナルを宙に浮かせ、そのオリジナルと外見の似ている剣をハギは構えて俺を待ち受ける。
俺はギルドで借りた模擬戦用の銅剣を持って場内に入ると共に、ハギは割と本気で切り落としてきた。
だが──
「脆い」
銅の剣で受け止めた瞬間、ハギの作った剣からパキリと嫌な音が鳴り、剣の真ん中から割れた。
「まだ均一じゃねえな」
「んー、難しいなぁ……」
ハギは折れた剣を土に還す。そして宙に浮いているオリジナルの銅の剣を手にして魔力を通し始めた。
「数回でなまくら以下からなまくらたぁ末恐ろしいな……ありゃあ敵に回したくねぇ」
「もう少し上手くなれば完全犯罪だって出来るようになるだろうな」
「止めてくれ。現実になりそうで怖いから」
場外に出てギロティの隣に戻ると、ギロティは顔を若干青ざめてそんなことを言う。確かに敵にしたくはない。
俺達が他愛ない話をしている間も、ハギは右手に持つ片手剣をどうにかして複製しようと試みている。
「……まあ、嬢ちゃんに創造の才能がないだけマシって思うか。あんなの出来るやついねぇだろうし」
「ちなみにだが今代の勇者は魔力から剣を作って、その剣を魔力に還すことくらいなら造作でもないらしいぞ」
「ケイが教えたのか?」
「いんや? 召喚された直後かららしい。才能ってすげぇよな」
「お前が言っても嫌味にしか聞こえねぇよ」
嫌味か……。
「まあ、時間は無限にあったからなぁ……」
「……」
ギロティは何も返さない。視線も俺から外し、ハギが試行錯誤しながら剣を創造する姿を、どこか寂しげに見つめていた。
すいません短めです (事後報告)。