第259話 第二学年冬季休暇7
ハギの魔法の練習のための武器も買い、俺達はあてもなく王都を散策する。
「ねえケイ、この辺りで模擬戦とか魔法の練習が出来るところってある?」
「冒険者ギルド。あそこの地下、いくつかの模擬戦場になってるぞ」
「じゃあ冒険者ギルドに行こう」
「いいぞ」
ハギは車椅子を押して冒険者ギルドへと向かっていく。適当に散策していたからか、はたまた元より冒険者ギルドへと向かう気だったのかはわからないが、目と鼻の先にギルドはある。
「その地下って使うの許可必要だよね?」
「そりゃな? 確か申請書を出せば冒険者なら誰でも入れるが……」
入るには冒険者であることを証明するギルドカードが必要なのだが、生憎持ってきていない。
高ランクのカードだと申請書いらずで入れるから持ってきたほうがよかったな。
「あ、私は持ってきてるよ。ケイのも」
「待て。なんで持ってんだ」
「ライアお姉ちゃんに渡されたんだ『何かあったらマスターのカードを見せなさい』って」
「確かに効果はあるだろうが……」
黒色のギルドカードって知ってるやついるんかね? まあギロティがギルマスなんだし情報くらいは下ろされてそうだが……。
「まあ何とかなるでしょ……なるよね?」
「聞くな。ギルドの前だぞ」
入れば、申請してみればわかる。
ハギもそれで納得──というか問題の先送り──したのか、車椅子を押して堂々と冒険者ギルドへと入る。
冒険者ギルドの出入口の扉は広く作られているから、車椅子ごときが通っても別段問題視されることはない。しかし車椅子に乗る奴が来ることも本来ないような場所だ。例え付き添いであったとしても。
故に好奇の視線が俺達に集まった。
「凄い注目されるねぇ」
「怪我した冒険者は基本ここに寄らないからな。さ、申請はハギがしてこい」
「はーい」
ハギは車椅子を押す手を離して受付へと向かう。
俺も別段遠くから見ていようとは思っていないので自らタイヤを回してハギの横に着く。
「あ、来たんだ」
「『あ、』じゃねえよ……ほれ、さっさと書く」
「名前と使用目的、あと同行者だよね」
ハギが真剣に申請書を書き始めた。受付は席を外したが、たぶんハギが書き終わる前には帰ってくるだろう。
「えーっと、これで大丈夫かな?」
「どれどれ……ん、書き漏らしはねぇし問題ないだろ。後は受付が帰ってくるのを待つだけだな」
「呼び鈴鳴らす?」
「鳴らしたきゃ鳴らせ」
「それじゃあ」
ハギは呼び鈴を鳴らした。割と暇している受付は多いが、どこか困惑気味であり、こちらへ来る様子は見られない。
「お待たせしました!」
「お、お疲れ様です……」
ドタバタと複数の足音が迫ってきた。まず着いたのは先ほどの受付の青年で、その後ろには見覚えのあるような少し顔のやつれたドワーフがいた。
「──はい。申請書は大丈夫です。ただ監督はギルマス直々に務めることとなりましたのでご了承ください」
「だって」
「いいだろ。てかお前のことなんだから俺に聞くな」
「それもそっか」
ハギも快諾して、受付に案内を受けて移動を始める。
「あ、私押すよ」
「いいよ。これも運動だ」
再び車椅子を押そうとしたハギを言葉で制し、俺はタイヤを押して受付の後に続く。ハギは横を歩いているが、その視線は幾度も押し手部分にいっており、車椅子を押したいのだろう心情がうかがえた。
「……ったく。こっからは多少下りになってんだ。怪我人は他人の手ぇ借りてろよ」
「下りっつっても緩いだろ。気にすんな」
慎重に車椅子の速度を調整しながら、俺は三人の後を追う。
少し遅れ気味だが、まあ問題ないだろう。
「……」
「……やっぱ押していい?」
「じゃあ頼む」
戻ってきてまでそう問われれば拒否するのも些か憚られる。俺は素直にハギに押してもらうことにした。
遅れました。本当に申し訳ない。