第258話 第二学年冬季休暇6
ハギが武器屋に入ってから少し。
昼間ということもあり幾ばくか一通りの少ない通りの一角でぼうっと景色を見ていると、少し遠くから「待てー!」や「あのガキを捕まえろ!」なんて声がしてきた。
段々と近づいてきている声の発信源の方向に視線を向ければ、遠目ながらボロい服の子供が大人に追われているのが見えてきた。
まあ、状況から察するにたぶん窃盗だろう。最近は知らないが、前世でも似たような場面を見たことがあるから間違いないだろう。服装の差からして親子の線は薄いし……あったらあったで問題だが。
そんな思考をしている間に、足音が聞こえる辺りまで逃げる子供が来ていた。
とりあえず──
「よっ、と」
「!?」
ひょいっと。近くに刺さってた木製の植物支柱を拝借して、先端を子供の服を引っかけて無理やり止めてみた。
おー、と周りの人から声が漏れた。
なお子供は想像以上に軽かった。
「はなせ!」
「離すもなにも捕まえてねぇけど……」
引っかけただけだし。意図したことだから頓知と言われりゃそれまでの話だが。
もがいている子供を少しして息を切らして顔を赤くした大人がやってきた。
「はぁ……助かったぜ……兄ちゃんよ……はぁ……」
「おうよ」
「はなせー!」
「おうよ」
俺は支柱を引いて服から外す。子供は尻餅をつきながらも凄い形相で俺を睨み付けてきている。
んー、腕痛ぇ。千切れそうなくらいに痛い。そして何よりダルい。流石にハギの前じゃこんな弱気な姿は見せられんが……。
「じゃ、俺はそろそろ失礼するわ」
「おう。あんがとな!」
ハギが店から出てきたのを見つけ、俺は植物支柱を元の場所に刺して移動する。どうやら騒ぎを聞き付けたらしく、先ほどまで居た場所に視線が向いている。
「……もしかして渦中の人だったり?」
訝しげに呟いた言葉を耳が拾った。もしかして俺のこと言ってる? 大当たり。
ハギは遠い目をして「ありえそう……」と更に続けて呟いた。そしてその直後、車椅子の音を聞き取ったのか、ハギがこちらに視線を向けた。
「お、買うものは決まったか。ちょっと待っててな」
「うん……それより何かあったの?」
何とも答えがたい質問が飛んできた。
そういや聞いてなかったな……。
「スラムのガキの盗みを働いて捕まっただけだよ」
「へぇ」
納得した様子で大人が子供を引っ張っていった方向をハギが眺めている間に、俺は数枚の金貨を取り出す。
「ほい。これで足りそうか?」
「うん。全然大丈夫。買ってくるね!」
「おーう」
ハギが武器屋に入って行くのを見送り、再び手持ち無沙汰になった俺はまた景色を眺める。
「何時の時代でも人は変わらんなぁ……」
そんなどうでもいい感想を呟きながら。
主人公視点の方が番外編に見える謎
更新です。週二回更新にしたいのに時間が全然なくてまた日曜日になってました。更新です。
語りがヒロ○風で草。