第254話 第二学年冬季休暇2
木製の車輪が石造りの地面と接して振動を伝えてくる。この振動に多少のくすぐったさを抱きながら、俺は乗っている車椅子を押されて商業区の一角で『繁華街』と呼ばれる一本道を進んでいく。
「まずは何を見るんだ?」
「んー、取り敢えず装飾品とか?」
ハギの口から年相応と取れる台詞が出て、俺は少し自分の口角がつり上がったのがわかった。
「じゃあ、もう少し端に寄れ」
「はーい……お店に入ってもいいの?」
「気に入った物があったら買ってもいいぞ。奢るから」
装飾品は少ないからなぁ……確かに去年あげたりしたが、あんまり頓着しないのか、ハギの持つ装飾品の数は少ない。
「えー、別にいいよ。色々あったら迷うし」
「……」
訂正。ただの面倒くさがりだわ。しかし気持ちはわからんでもない。
「ハギ、買ってやるから気に入ったアクセサリーとか服を探してこい」
「え、ケイの車椅子押してるから無理」
「自分で動かせるから行ってきんさい」
「……はーい」
渋々了承といった様子で、ハギは手押しハンドルから手を離し、繁華街を先へ先へと向かう。
俺もゆっくりとハギの向かったであろう装飾品を売る店に向かう。まあ繁華街、装飾品専門店は一つしかないのだが。
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「──でもさー、私って前世がお姫様だし、あんまり装飾品にはいいイメージがないんだよね。というか、重いってイメージが強い」
「そりゃあ幾つもの宝石が連なってるネックレスならそうだろうよ」
予想通りハギは装飾品専門店にいた。ショーウィンドウとにらめっこしてるのは予想外だったが。
そういえば昔から、ハギは装飾品が嫌いだったか。
「そうだけどさー、別にネックレスとかする必要なくない? 家紋でも首に引っ提げてくれた方が個人的には楽だったのに……」
「それこそ失笑されて終わりだと思うぞ?」
「皆でやれば問題なくない?」
純粋な瞳してんのに言うこと酷ぇ……そこまで装飾品が嫌いか。
「無理に決まってるだろ。そしたらまた別の問題が生まれるからな」
「え? ……あー、貴族と平民の差別かー」
その通り。
この国では貴族にも平民にも姓と名があるが、家紋は貴族にしかない。それらこの国だけでなく他の国でも大体同じ。まあ家紋は平民にもあるが姓がなかったり、平民にも両方あったりと多少の差異はあるが、基本は平民に家紋はない。
「だったら首飾り全面禁止にした方がいいぞ? 職人に呪われるが」
「代償が大きいなー」
遂に、装飾品をどうにかして買わない方向にと考えはじめていそうなハギに、少しだけ提案することにした。
「というかハギよ」
「ん?」
「別に装飾品は首だけじゃないだろ? 髪飾りだったりブレスレットやアンクレット……ピアスとかな色々あるだろ」
「確かに……」
ピアスは嫌だけど。とハギはぼそりと付け足す。痛そうだもんな、あれ。
「だったらブレスレットがいいなぁ……ちょっと行ってくるね!」
「おーう急ぐなよー」
店へ入っていったハギを見送り、俺は店の外で相変わらず良いとは言えない空模様を眺める。
すっかり二人で出かけることとなったが……今さらだけど『異性と二人で外出』ってそれデートじゃね?
すいません。遅れました……もう眠気が限界なんで寝ます。