第248話 第二学年二学期 魔術大会8 【三人称視点】
啓とハギによる魔術大会決勝が始まり早数分。会場は決勝らしいハイレベルな戦いと、往年の魔術大会では見ることのない剣と剣の超高速でのぶつかり合いに大きく沸いていた。先の爆発とてそれは例外でなく、観客達は二人の次の戦いに強く関心を持っていた。
『煙が晴れ、遂に二人の姿が見えてまいりました!』
実況の言葉通り砂煙が晴れ、二人の影が見えてくる。
先に姿が明瞭になったのは啓だ。彼は鬱陶しい煙を一振りで飛ばし、未だ煙の中にいるハギがどのように来てもいいように構える。
『クロヤ選手全くの無傷! 先の爆発を物ともしていません!』
実況の言う通り啓は無傷で爆発を凌いだ。多少制服に砂が付着しただけで、どこを見ても傷は一つもない。
啓としても制服に汚れが付いただけという結果に安堵している。魔法が使えない今、破れでもしたら自分て補修しなければならなかったからだ。
そんな安堵も束の間、砂煙の中から啓に目掛けて、幾つもの魔法が撃ち出される。
小さく舌打ちを一つして、啓は剣で魔法の軌道を魔法が起爆しないように絶妙に逸らしながら、少しずつハギへと近づいていく。ハギの周りの砂煙は、啓の一閃で晴れ、絶え間ない魔法の乱舞は余すとこなく観客に見せることとなり、客席は更に沸く。
「面倒だなぁ……ったく」
魔法の乱舞の中、ハギの構築する魔法に水属性の比率が高いことに勘づき、啓は体が軋むのを覚悟して大きくハギの背後へと回る。ミシリと嫌な音をたてる体を無視して斬撃を飛ばす。
狙いを見破られたハギは、一切驚くことなく、魔法で作った斬撃で応戦する。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる……ならぬ下手な魔法も数撃ちゃ当たるってか」
「? よくわからないけど、まだまだ行くよ!」
愚痴るような啓の物言いに多少の手応えを感じながら、ハギは先ほどより巧妙に魔法の乱打を再開する。
啓も応戦するように集中して魔法の軌道を逸らし、再びハギへと近付いていく。第六感が響かす警鐘を無視して。
人外じみた──本人は否定するだろうが、実際に人を止めてはいる──啓の挙動に、ハギの内心に焦りが生じる。彼女の魔力も無限ではない。いくらコスパの良い魔法運用を行おうと、それを永遠に行うことは不可能。それ故に生じた焦りは、彼女から冷静さを奪う。
「泥鎖!」
「!? お前──」
突然現れた泥の鎖に、啓が焦った様子でかつ笑ったのを見て、ハギは自身が啓を超えたことを悟った。しかし泥の鎖の拘束を強めようとする直前に鎖は無理やり砕かれる。
「やるようになったなぁ……」
「ケイこそ……そろそろ限界じゃない……の!」
ハギは残りの魔力全てを身体強化に使い、二つの剣で啓へと強襲する。
二人の距離は二丈程度。魔法の構築では負けると判断したハギの直感は正しく、啓の体が限界というのも大当たりであった。
「限界だが、別に棄権はしないぞ?」
「私も情けで棄権なんてしないからね?」
寧ろ倒す! そんな意気込みと共にハギは背後から魔法で奇襲をかけるが、避けられて失敗。横からの一撃を辛うじて受け流しながら一歩下がる。
啓は追撃しない。いや、出来るほどの余裕がないのだ。全身が悲鳴をあげており、今立っていることさえ奇跡。外見こそ無傷ではあるが、内側はボロボロである。
その状態で幾度と剣を交える啓の姿を、観客席にいるライアは『狂気』だと後に言う。
「──はぁ、はぁ……そろそろ仕舞いにしようぜ……」
「まだ、まだ行けるけど……それ、乗った……」
十数分後。両者は肩で息をしながら構えをとる。
しかしハギの造り出した剣は少し前に消え失せた為一本となっており、大勢の観客がハギが負けるのではと予想した。
一方ライアは、啓が負けると予想した。
「……構えは同じか」
「うん」
会話はそれだけ。次の瞬間には、ハギと啓の立ち位置は入れ替わっており、両者は──
「両者戦闘不能により、引き分け!」
──共に力尽き、決着のつかないまま魔術大会の決勝は幕を閉じた。
やっと終わる……長かったですね魔術大会。30話約5万文字くらい? もう少しあるかな。
次回で一段落の予定です。終わればハロウィンなので作者楽しみ也。