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100回目の転生で精霊になりました  作者: 束白心吏
第四章 精霊達の青春………?
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第245話 第二学年二学期 魔術大会5 【三人称視点】

 黒谷啓は平和主義でこそないが過激思想の持ち主でもない。元来は心配性でかつ怠惰な質なので、ある意味この世界での経験を通して、ある意味では逞しく成長してきたとも言えよう。

 とはいえ根っこの部分はそう変わらないもので、物臭な彼は入場門へ移動しながら、こう思っている。


──嗚呼、準決勝面倒くせぇ。と。


 元より啓に魔術大会を楽しむ以上の心意気はなかった。準決勝の舞台に上がるだけでも、いい記念が出来たので、もう十分だと思っている節もある。この師にしてこの子あり──などと慣用句を捩った表現は、彼とハギ・スカビオサの心象を如実に表している。

 しかしそうは思ってもその心象を口には出さず、わざと負けようと思わないところが黒谷啓の黒谷啓たる所以なのかもしれない。何せ彼は無意識的ながらも『ハギと決勝で戦う』ことが確定事項となっているのだから。それに気付かぬくらいに愚かで、気付いても気恥ずかしく思うくらいには青い。対人関係に関しては人一倍以上遅れているが故に。

 面倒と思いながらも、啓は係の合図で闘技場内に入る。

 先に入っていた対戦相手──以前、魔術大会のタッグ戦の決勝で戦った『絶壁』という、彼女からしたら大層不本意でかつ失礼な二つ名を持つ生徒会長──は、入場してきた啓の姿に一瞬だけ驚き、そして次に笑った。

 驚いたのは対戦相手だけではない。観客や実況者からみても不思議だったようだ。


『なんと啓選手、今回は不思議な衣装は着ておりません! 制服姿に剣一本と、以前より普通な格好で入場しました!』


 普通の格好──即ち制服姿で現れて、これほどまで驚かれる生徒というのも珍しいだろう。しかし魔術大会では大抵の生徒が制服の上から外套を身につけているので、以前とはまた別種の珍しさがあったのは確かだ。

 それに気づかない啓は「普通で悪かったな普通で」と誰にも聞きとれない程度の小声で愚痴って定位置につく。

 なお“以前より”普通なのであり、全然普通ではない。何せ“魔術”大会の準決勝というのに、杖の一つも持っていないのだから。


「両者、構え!」


 審判の合図で生徒会長は杖を構え、啓は正眼の構えをとる。

 なお余談であるが、本来魔術大会の出場者の大半は杖を構える。啓やハギ、拓哉といった面子は本来少数派であり、魔術大会では異質でもある。


「──始め!」


 審判の声と共に、生徒会長は土魔法の壁を造り出す。模様なだ一切ないただの壁であるが、それは観客に城塞を連想させるほどに立派であり、思わず実況の生徒も──


『我らが生徒会長の初手は得意の城壁構築だ! この絶壁をクロヤ選手はどう攻略するのでしょうか!』

「……」


 ──まるで息を吸って吐くように、彼女の自然と地雷を踏んだ。

 遅れて気付いたらしい実況の生徒は生徒会長の顔色をそろーっと伺うが、会長は怒りから右頬を痙攣させながらも更に魔法を構築していく。

 その間、啓はただその様子を眺めているだけだ。魔法で妨害することなく、精霊に魔法を食わせることもせず、その様子を眺めているだけ。

 しかしただ眺めているわけではないと、生徒会長は啓の瞳を見て理解する。その瞳に闘志が宿っており、勝機を見いだしていることさえ、彼女は直感した。

 故に生徒会長は城塞の上から、外──即ち啓の立つフィールドに幾つもの魔法陣を展開していく。

 それは一つ一つが必殺となりうる、土魔法の中級魔法。その亜種。それが幾つも展開される領域に啓は踏み込み──


 ──生徒会長に対して挑戦的な笑顔を向け、剣を魔法陣に捨てるように投げ入れて、魔法陣から生えた鉄杭に向かって自身も跳んだ。


「はい!?」


 これには生徒会長も驚きを隠せなかった。何せ彼女からしてみれば、啓のとった行動は自殺行為に過ぎず、まさか彼女自慢の『鉄杭』の面を蹴って更に飛ぶとは思いもよらなかったのだから。

 しかし啓からしてみれば、この魔法群は「どうぞ同じ土俵へ御上がりなさないな」と言っているようなものであり、実際にそう受け取って出来ると踏んだからこそやっているに過ぎない。

 なお本来『鉄杭』という魔法は土魔法に属し、『魔法陣から出てきた固い土の杭で相手を吹き飛ばし無力化する』というものなので、殺傷力はさほどない。

 なお鉄であるため打ち所が悪いと御陀仏である。


「ほい」


 啓は『鉄杭』が消える前に鉄杭を蹴って跳び、更に鉄杭の出てきた衝撃で飛んだ剣を掴んで、再び魔法陣の上に落とす。そして出てきた鉄杭を蹴って、剣を掴んで──と繰り返すこと三回。啓は剣と異常な身体能力のみで城壁の上に立つ。

 なお端から見れば、啓の先の動きは魔法によって強化されたものと見なされ、そこまで注目を受けることはない。ただ度胸は十二分に認められただろう。


「……あなたは怪物ですか」

「こんなに魔法を使ってるのに疲れた様子を見せない会長こそ、怪物でしょうに」


 どっちもどっちである。

 軽口を叩きながらも、会長は魔法で啓を落とそうと多種多様な攻撃を繰り出す。時には足場をへこませ、時に前後から魔法の弾で啓を混乱させる。

 それを飄々と──内心はヤバいヤバいと大騒ぎしながらだが──啓は避ける。直感で魔法を察知してはへこむ前に移動し、時に魔法を切る。啓にとっての幸いは、対戦相手が魔法発動の兆候を比較的捉えやすい土魔法を得意とする魔法使いだったことだろう。しかし攻めに転じることは出来ない。端からは戦況は生徒会長のほうがやや有利に見える。

 しかし実際は互角または啓が段々と有利なっているのが現実である。生徒会長の魔力も有限ではない。大量の魔法を使えば集中力もかなり必要となる。元より彼女は短期決戦と考えて戦っていたが故、戦いが長引くにつれ劣勢になるのも仕方ないことだ。


 啓と生徒会長が戦いはじめて早くも二十分が過ぎた。一対一の戦いでこれほど掛かるのも珍しい。

 しかしそれにも決着が着くときは来る。

 唐突ではあるが、啓と生徒会長が戦っていた城壁が霧散していくのが、終わりの始まりであった。理由は言わずもかな。生徒会長の集中力の限界である。

 何せ生徒会長は城壁を維持しながら、多種多様な土魔法を使っていたのだ。それでも二十分ほど戦ってきたのだから十二分に怪物と呼ぶに値する人物である。

 城壁が崩れる中、啓は何の魔法も使わずに着地し、生徒会長は最後の魔力を振り絞って魔法で衝撃を無くし、最後に両手を上げた。


「──降参だ」


 審判に向かって生徒会長はそう言った。

 戦闘シーン練習を兼ねての三人称視点……中々に筆が乗った不思議。


 あ、感想頂きました。意見がありがたい……なお修正の進捗は『第2部分の下書き完成。現在の2~4話くらいの話が1話にまとまった』です。この時点で話が大幅に変わってくるので、もういっそ一章全部書き直そうかなって思い始めました。2章も書き直そうかなぁ……一章を修正するのにも時間が足りないのにどうするつもりなの私。

 修正版を投稿する際はタイトルでもお知らせする予定です。

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