第244話 第二学年二学期 魔術大会4 【ハギ視点】
魔術大会の最終日……準決勝と決勝が行われる今日を楽しみにしていなかったと言えば嘘になるが、今となっては緊張やら不安やらで押し潰されそうになっている自分に苦笑が漏れる。
勝てる自信が無いわけではない。寧ろケイでないから勝てるという根拠のない確信を持っているくらいだ。勝てるとは思う。
されど大勢の観客に見守られる中で戦うというプレッシャーには負けそうだ。そんな認識もある。
「準決勝でケイと当たればよかったのになぁ」
きっとケイが聞いたら頷くかもしれない言葉が無意識にこぼれた。
だってそうすれば、勝ち負けに関係なく私の目標は達成するわけだし、そうすれば高確率で私は準決勝で敗退出来て、プレッシャーを与える側になれるわけだし──あれ、私もしかしてケイに毒されたかな。
「初戦っていうのも嫌だなぁ。公平なクジで決まったことだから文句はないけど……」
控え室で見ていた開会式の時の会場の熱気は一学期の大会より凄く、軽く圧倒された。ただ選手として控え室に居るだけでもそんななのに、その中で戦えとなったら本領を発揮は出来ないと思う。
まあ、どんな状態でも本領発揮できるのがプロってことなのかな。ケイも言ってたし。私はまだまだ未熟だなぁ。
私はひとつパシッと頬を叩く。痛いけれど、幾ばくか緊張が和らいで、気合いが入った気がする。
「……よし! ちゃっちゃと勝って、ケイと戦おう!」
まあ吸血鬼としての本領はもともと発揮できないけどね!
内心で少し自棄になりながら、私は呼ばれて闘技場内に立つ。ここに立つのも後二回……もう勝った気でいる自分に、少し苦笑が漏れた。
「両者、構え」
審判の先生の声に従い、私は剣を構える。相手の女子生徒も片手剣を構えたから……んー、魔法剣士ってやつなのかな?
そういえば審判で思い出したけど、放送席の話、聞いてなかったなぁ……結構好きなんだよね。実況。
それをケイに言ったら「お前ヤナギ○ワシンゴとか好きになりそうだな……」と言われたけど誰それ? 後でツユちゃんかヒヨリちゃんに聞いてみよー。
「──始め!」
意識が明後日の方向に逸れていたら、試合が始まった。相手である……名前を知らない下級生の女子は、魔法を幾つも放ってきた。対処が面倒だなぁと思いつつも、魔力を込めた模擬剣を振るって全てを相殺する。
『先制攻撃はエリアンナ選手! 雨のように大量の魔法でしたがハギ選手は無事です! 制服も汚れていません!』
あ、エリアンナちゃんって言うんだ。愛称はエリーかな? それにしても器用だなぁ……単一属性ってところが残念だけど、魔法を複数同時に撃ち出すだけ伸び代はあるなぁと思った。天才って奴かもなぁ。
とりあえず私も同じ量の魔法を撃ち込んでみることにした。
『ハギ選手も魔法を撃ち始めました! エリアンナ選手も負けじと魔法を撃っていますが、色とりどりの魔法を撃つハギ選手が優勢です!
今回の魔術大会の中でも特に魔術大会らしい戦いになってきましたね!』
実況の言葉に些かの苦笑をしてしまいそうになるのを堪える。私やケイもだけど、魔法オンリーで戦うことってあんまりない。理由は魔法のみで戦うのがキツいからだ。
だから武器で牽制しながら魔法を練るのが魔法士の戦い方なんだけど……まあ魔術大会のような見せ物なら派手な魔法が飛び交うほうがらしいよね。うん。
ただ、そういう魔法戦は魔力を無駄にするだけだから長くは出来ないよね。
「魔法誘導」
『おーっと、ハギ選手が予選のような魔法で魔法を誘導した! もしや全てを切るつもりなのかー!』
そのつもり……というかひとつひとつを丁寧に対処するのが面倒だから仕方ないのだ。不可抗力なのだ。
ちらりと相手選手に目線を向ければ、ニヤリと笑ったようにも見えたけど、私は魔力を込めて剣を大きく振るだけ。そういえば戦い方もケイに似てきたのかな……剣で魔法を吹き飛ばすとか。私は魔法を使ってるけど、似てるかもしれない。
『切ったー! 何十もの魔法を一度に切り捨ててしまいましたハギ選手! いったいどのような手品を使ったのか!』
「ちょ、怪物すぎるでしょ……」
失敬な。まあ否定は出来ないけど。
私はケリを着けるため、動揺しているエリーに近付いて首筋に剣の腹を当てる。
「チェックメイト」
そう小さく呟くと共に試合は終わった。何か決まった感あるね。格好いい。
さて、私は終わったからケイが次の戦いで勝てば、遂にケイと戦えるんだ。そう考えたらワクワクしてきた。
書いてる時に思ったけど、ハギが戦闘狂になりかけてますね……
改稿の都合上色々下準備とか統合できるならしちゃおうと自棄っぱちになって過去の話読み返してたらすげー恥ずかしい気分になりました。穴があったら入りたい。改稿版第2話を書いたらそこもどうにかしてやる。いっそ第1章全体を改稿してやるぅ!