第237話 第二学年夏期休暇12 【ハギ視点】
勉強なんて、必要でなければ、進んでやりたくはない。
正直、ケイから大事だからやれと、師匠命令を出さなければ絶対にやらない自信がある。だけど始めると中々に集中出来てしまう。特に文化や価値観といった教科は前世を含めても全くやっていなかったので新鮮だ。魔法は前世でたくさんやったし、正直レベルも低いからあんまり。
ケイに教わっていた時から思っていたけど、何で基礎魔法陣を高等学校に行ってまで習うのさ。初等部でやるものじゃないの? ……まあケイが言うには『些か腑に落ちない点もあるが、それだけ平和ということ』らしい。まあ戦争が無ければ攻撃魔法なんて使う必要もないからね。
思考が勉強から脱線してしまい、私はひとつ大きく伸びをした。壁掛け時計に目を向ければ、時刻は昼前くらいを指していた。
この時間だと、まだ『魔法の扉』の向こうにいるかもしれないし、厨房にいるかもしれないような微妙な時間だ。今日分の課題は一応終わったので、私はまず『魔法の扉』のある方へ足を向けた。
「──あ、当たりかな?」
私は魔法の扉のダイアルが0以外に設定されているのを見てドアノブを捻る。
平生なら0で固定されているこのダイアルは様々な空間に繋がっている。それを管理するのはライアお姉ちゃん。まあ管理と言っても、洗濯物を干したり、扉の向こうに住んでいる魔物と模擬戦をするくらいらしいけど。
「このダイアルはどこだろ……いや遠くに地獄があるんだけど?」
扉の先では火の粉が舞っていて、魔力の大きなうねりを感じたと思ったら、大きな爆発音が鼓膜を震わせる。
「──来ましたか」
「ライアお姉ちゃん!?」
「失礼。会話はまた後程にします……今は逃げますよ」
音もなく隣に立ったライアお姉ちゃんは私をさっと抱き上げて高く跳ぶ。速度は前に体験したケイの移動方法よりマシだから耐えられたけれど見えた景色が駄目だった。
何せ先ほどのような爆発が大小問わず何度も何度も起こっていたのだから。
「あれは……中心にいるのはケイ?」
「ええ、正確にはマスターとその使い魔の戯れです」
あんな戯れがあって堪るか……そう現実を直視できずにぼやくことも出来ず、私は思わず目を閉じる。
吸血鬼は目が良い。暗い中でも少しの光源があれば辺りを見渡すことも造作ではないくらいには。その弊害として強い光は苦手だったりするけど、何度も明滅するような光は苦手とかではなく『無理』なのだ。
「ご安心をハギ。そろそろ終わりますから」
お姉ちゃんは何かを勘違いしている感が否めないけれど、どうであれ直視は不可能なので頷いておく。ライアお姉ちゃんの言う通り、爆発音は間隔が段々と空いてきて、数秒後には一切聞こえなくなった。
私はライアお姉ちゃんに抱えられたまま爆心地の近くで着地する。
「ライア、終わったぞ──っと、ハギも来たか」
「……ケイ、上着くらい着てよ」
「燃え尽きたに決まってんだろ」
爆発見てたろ? そう言って笑いながら右手人差し指にとまる二羽の赤い小鳥をこちらに寄越してくる。
「ハギ。そいつらに魔力を与えてみてくれ」
「いいけど……可愛いねこの小鳥さん」
「……残念ながら私は肯定できませんね」
「俺もだ」
ケイの使い魔なんだよね? そう思いながらも、私は魔力を二羽にあげてみる。
「うわっ! 一瞬で出した分全部食べられた!」
「やっぱ食ったか」
「? どゆこと?」
納得しているケイの様子に戸惑っていると、ライアお姉ちゃんが説明してくれた。
「この二羽は『神鳥』と呼ばれる大食い……もといマスターの使い魔。ある特定の魔力以外は受け入れない質のグルメなのですよ」
「『神鳥』って……太陽神様の御使いじゃん!」
タイムリーなことに、先ほど復習していた歴史の部分の話だったことで、私は驚きを隠せなかった。
故に抱いた疑問もあるけど。
「でも『神鳥』って六羽で一つの存在なんじゃ……?」
「お、知ってるなら良かった」
ケイは左手で私の頭を撫でてくれた。右手は二羽が乗っている。
「コイツらは人間の大陸を守護する『神鳥』だよ。各大陸に二羽ずついる……とされるな。『六羽で一組』って伝説があるのは少し昔の大戦を終わらせたのが三大陸に住む『神鳥』が力を合わせてだからってだけぞ」
「へぇ……教科書には『聖書』のがどうとか書いてあったけど?」
「『聖書』も文才のある商人が書いた長編小説が元になってるんだが……まあいいや。『神鳥』は六匹がそれぞれ伝説を持ってる。人間の大陸なら不死鳥伝説なんてのは『神鳥』の実際にあった話だぞ」
「魔大陸にもあるよね。不死鳥伝説」
「まあ『神鳥』は不死が基本だからな」
うわー高性能。使い魔として最高レベルじゃん。
私は左肩に乗る赤い小鳥を撫でる。
「それで名前はなんていうの?」
「付けてねぇよ」
「マジか」
可愛いのに付けてないとは勿体ない。
「まあ使い魔とは言いましたが、ただ単に懐かれているだけですからね」
「懐かれてるというより、餌製造機くらいにしか見てないだろ」
「確かに」
「一体何があったのさ」
ライアお姉ちゃんもケイも当たりが強いのは何故なの? こんなに可愛いのにさ。
「この鳥は大量に魔力を食らうんですよ」
「過去には空間ごと食われたな」
「ありましたね。あれは殺すのが大変でした……」
どこか懐かしむような二人の遠い目に、とりあえず私は、この家っておかしいなと今さらなことを思った。
「名前付けていい?」
「いいぞー」
「ちなみにケイ達は何て呼んでるの?」
「「非常食」」
酷い。即答で返ってきた名前に苦笑しながら、私は二羽の名前を考える。
神鳥だから、立派な名前がいいよね。けど双子ちゃんのように似たような色をしているから、似た名前がいいなー。
「鷹のように格好いい小鳥が『すばる』で、赤くて可愛い小鳥は『すまる』とか?」
「統べるのか?」
「滑ってるのはマスターでは?」
「すべる違いだな……まあ仲良くしてやれ」
「え、私が? いいの?」
何はともあれ、二羽の小鳥の名前が決められたのは嬉しいな。これから時間があったら来てみよっと。
とっぷあいどるの花咲かせまひょ (挨拶)
あんまり納得のいく出来じゃないけど更新です。一話に書きたいことを少しだけ詰め込んでみた。
……後で改稿するかも。
明日から総選挙とオーディションと決定戦がありますね。DDな私ですが今回は本気で紗枝はんに全部捧げます。