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100回目の転生で精霊になりました  作者: 束白心吏
第四章 精霊達の青春………?
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第236話 第二学年夏期休暇11

 地球では独り立ちしてやっと休みを好きになれた。自分の好きな時間に起きて、自分の好きな飯を食って、好きなことをして、寝る。それが出来ることの幸福を知れたからだろう。

 しかしそれ以前、地球で学生をやっていた頃は、朝から家にはほとんどおらず、拓哉の家か図書館で大半の時間を過ごしてひっそりと夕方に帰っていた。思い出したいとは思えない記憶である。

 俺にとって学生の休みとはある程度の自由はあるべきものだと思う。学生の間しかない長い羽伸ばし期間をどう扱おうと個人の勝手であるが、自分で満足と思える休みを過ごせるのなら、きっとそれは自由な休みなのだろう。

 ………まあ何が言いたいのかと言うと、俺は休みがどういう物かこれっぽっちも分かっていなかったということである。


 長期休みほど暇な時はあるだろうか

 学校で出された課題もほどほどに、俺はふと脳裏に浮かんだ疑問について、少しだけ真剣に考えてみることにした。特に理由はないが、強いて言うなら暇潰しだ。

 暇とは何だろうか。言い換えれば空き時間、手隙。何かをやる必要のない時間。

 ならば今この時間は暇なのだろうか。課題を黙々と片付けていくこの時間は、暇と言うに値するか?

 答えは肯定(イエス)。暇だからこそ、やりたいとはこれっぽっちも思わないけど、学生の身としては大切な勉学に励んでいたのだから、十二分『暇潰し』に値するだろう。


「しっかし………いつの間にか半分終わってるんだけど」


 そんなにやった記憶もないが………半分くらい無意識にやっていたのだろう。やっぱ無意識は怖いと再確認し、課題用ノートを閉じて、真横に置いておいた『龍血』に関する資料を見る。

 この世は地球以上に不思議で溢れている。魔法然り竜然り。とても非現実的でヒトが生きるのには向いていないこの世界だからこそ、ヒトの在り方は簡単に変われる。それも物理的にだ。

 故にあるのだ。かつて在ってしまったのだ。

 ヒトが化生してしまう、非人道的な技術が。

 神様へと至れてしまう、魔法のアイテムが。

 その非人道的な技術で自分の命を救おうとするのだから、俺も貴族達の事を非難出来ないなと、不意に笑みがこぼれた。


「取り敢えず、今年の夏休みである程度の血を接種しておけば、延命くらいにはなるかね」


 微々たる時間を刻んでいる時計。命の時計は今も終わりへと向かって針を進めている。これを縮めたのは俺で、延ばそうとするのも俺で、何とも滑稽さに拍車がかかっていると思う。

 そんな道化だから、壊れる恐怖もない。壊れているからか、はたまた無知故か──


 無為な思考を断って資料を戻し、気分転換に冷やかしでもしようと部屋を出る。今の時間だったら、ライアはたぶん厨房にはいないだろう。目指すは様々な別空間に繋がる魔法の扉だ。

 魔法の扉なんて大層な名前の扉だが、単に少々特殊なダイヤル式の扉でしかない。それでも『金庫モドキ』と呼ばれるよりかはマシだろうとは思う。命名者はハギ。


「よし当たり」


 部屋は畜舎で登録されている空間の番号に設定されていた。ここはギロティと共に粗悪品………ではなく金銀などをカドゥルーに持っていったゴブリン達の住む空間でもあり、他にも色々住んでいる空間であるが、実は久しく行っていない。今世では皆無。

 農園のある空間とはまた異なるが、この空間の日差しも嫌いではない。というより、天候があんまり変わらない為、寧ろ好きだ。

 昼寝も気分転換にはいいだろうと考えながら扉を開いて空間に入る。

 ずっとほの暗い部屋にいたせいか眩い、刺さるような日光に思わず目を細めながら、俺は扉を閉めて東にある森へと歩みを進める。

 当初の予定はライアへの冷やかしであったが、ここであるなら気も変わる。何せ俺の使い魔の住み処でもあるのだから。

 そいつらの為だけに作った森は、この空間に後から付けたからか、景色には不釣り合いなほどに暗く、大きな違和感を持っている。


「進入禁止にしてるからなぁ………奴らも元気だとは思うが」

「──ええそれはそれは、大層元気ですよ」

「………いたのかお前」


 どこか怒気を含んだ調子で、二匹のゴブリンを連れたライアが横を歩く。


「んで、また森を食ったか」

「ええ、灸を据えても懲りないのでそろそろ処分しようかと」

「………それが出来ないからお前、苦労してるんじゃないの?」

「一度殺せばひと月は静かですから」

「黒い思考が漏れてるぞ」


 事実だから否定はしないが、やはり大食いだなアイツら。結構大きいあの森を食らってライアを怒らせるとかどんだけ食ったら出来るんだよ。つーか虫とか魚とかの餌もあったはずだぞ?


「彼の鳥達、魔力も食べるんですよ」

「そりゃ御愁傷様。外に出すか?」

「被害を顧みなくていいなら出せるのですがね………」


 そもそも居着いているから無理なんだけどな。何故か森の辺りを根城にし始めたから森を創って隔離してたわけだし。


「魔力か………ハギの魔力も食うかね?」

「それは彼ら次第ですね。ハギも呼びますか?」

「後でいいよ」


 久々にここまで来たのだ。一目くらい見てからでも問題はない。


「かしこまりました………そう言えば、今世では初めてこの空間に入りましたね」

「変わりないようでなりよりだよ」

「彼らのお陰ですよ──」


 俺とライアの後ろを歩くゴブリン二匹を指してそう呟くのと、二匹の聞き慣れた鳥の声が聞こえて俺に向かって飛びかかってきたのは、殆ど同時だった。

 更新遅れました。リアルが忙しいのが悪い。

 しかしながらやっと二年生の夏休みの本題に入れます。長かった……思い返すと自業自得ですね。次回はハギ視点で啓の使い魔をお披露目です。予定では。

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