第232話 第二学年夏期休暇7
──カドゥルーとはインド神話に登場する女太母の名前だ。1000ものナーガ達を生んだ女性とされている。そしてそれはこの異世界でも同じで、カドゥルーという女性はナーガと呼ばれる蛇の王を1000体ほど生んだとされている。
今や魔族しか知らないであろうこの『神話』は、7000年前に実際に起きた『復讐劇』が後世に伝わってモノで、内容は今日まで伝えられてきたモノそのまんまだったりする。
そして今から討伐もとい血液を貰おうとしているのは、そのナーガの中でも『竜王』と呼ばれた八体の中でも狡猾な蛇として知られている、今でも人類と共に生きる『タクシャカ』というナーガの本体だ。
100年ほど前に名も無き山に居着いた『タクシャカ』は、山一帯を己の聖地とし、信仰する者には多大な恩恵を与え、不信者や異教徒には多大な不幸を与える。そして狡猾なことに、タクシャカは異教徒達を甘い言葉で唆し、自分の信者にしてしまう。故に急激に力を着けてしまったとされている。
「──ま、一応は神の系譜であるが、あくまでも『限りなく神に近い』ってだけの『竜王』。それがタクシャカだ」
「へぇ………何か聖地の趣味悪いね」
言ってやるな。事実ほど人を傷つける言葉はないんだから。
「仕方ねぇよ。手っ取り早く信者を集めるなら、これが一番早かったんだし」
「………? 疑問が増えた。どうして信者を増やすの?」
「あー、そりゃあ神になるための正当な方法だと思ってくれ」
「信仰されなくちゃ神様もやってられないってこと?」
「そゆこと」
ちなみに俺はそこそこ信者を持っている。去年行った『アノンモース』の住人とか。
雑談で気を紛らわせながら歩いていると、やっとこさ山頂にある神殿が見えてきた。
「おー、霧が晴れてきた」
「さすがに自分の居場所にまで毒を撒かねぇだろ」
「それもそうだね」
そもそもこうして登ってくる異教徒なんていないし、魔族であっても先ほどの霧の中で活動することは不可能に近い。それこそ『魔王』並の耐性や体力を持っていれば話は別であるが、そんな常識の埒外がわんさかいるような時代でもない。つまるところ、この山の道中は天然の要塞のようなものであったのだ。まあ霧は人工的なものであるが。
「それにしても大きいね。山に登る前にあんな建物見えなかったけど」
「結界魔法でも使って隠してたんだろ」
「あー、そういえば霧の終わりの場所で魔力を感じたのって、それだったんだ」
間違いなく結界だな。もしかしたらタクシャカにとってもあの霧は毒になるのかもしれない。
「じゃあ、まずは交渉からだからな」
「そういえば血ってどれくらい貰うの?」
「コップ一杯分くらいか」
「へぇ」
だったらくれそうだね。と、どこか安心したようなハギの頭に手刀を落とす。
ちと竜を甘く見すぎだっての。
「いたっ………何さ」
「いや。気だけは抜くなよ? アイツら自尊心高いから」
「あー、はいはい」
何かを思い出したかの様なハギと共に、白く横幅のある大神殿へと、俺は足を踏み入れた。
インド神話を学びながらこれ書いてます。神殿はオリジナルだけどタクシャカの設定は少し拝借しました。
……そういえば歌詞を使うのって権利侵害なんですってね。この作品結構使ってるので直さないと。