第231話 第二学年夏期休暇6
着地点から数時間ほどかけて、目的の山の登山を開始した俺とハギだが、ここで一つ問題が起きた。
「あー、前が見えない!」
──障気が強すぎるのである。
叫ぶハギは当然だが、実は俺も見えてない。太陽の光さえ遮る障気の中は歩きづらく、かつ「はぐれないように」と歩く速度がいつも以上に遅いハギと手を繋いでいるので、正直今日中に龍と対面は出来そうにない。ハギは気にする必要もない障気なのだが………何故そこまで慎重なのかわからん。
ちなみに山を覆う障気。これ耐性がないと魔族でも酷く苦しむことになる毒ね。お陰で生えてる草木の大半は毒物ばかりで、独自の進化をしているから貴重ではあるが、はっきり言うと誰も取らない。
「いやー植物もすげーな? 太陽が使えないと悟ると障気から栄養を取り込もうとするんだから」
「正気じゃないよね」
本当な。しぶとさだけなら人類といい勝負しそうだよな………っと、関係ないな。
「………ハギ。お前『聖属性』って使えたか?」
「使える訳ないじゃん? いや適性はあるけどさ」
うん。知ってた。てかまず太陽光がないから無理か。
「んー、じゃあ鋼鉄の棒でもあれば来れ」
「障気を吹き飛ばす気?」
「その通り」
「正気?」
「お前それ言いたいだけじゃないよな?」
いやいいけどね? ちとオヤジ臭くなってるのはまあ環境のせいだろう。うん。仕方ない。
しかし………んー、適度に折れてる木もないし、このまま進むっきゃないか? けど視界は確保したい。けど俺の力じゃ諸刃の剣だしなぁ。
「ハギ、風魔法使え」
「えー………簡単なので大丈夫?」
「むしろ中級規模の魔法を使われても困るんだが? あ、魔力の操作誤るなよ」
「初級程度の魔法じゃそんなことしないって」
ハギは風魔法を操作しながら苦笑気味に言う。成長したなぁ。
魔法のお陰で一応の視界が確保出来たので少しペースを速める。しかし足元が見えづらいことには変わりはなく、日の光も殆どないため、夜目頼りに進むしかない。
今日という日ほど『夜目』のスキルに感謝の念を持ったことはないだろう。まあレベルは1で固定されてるけど。
「ケイー、ちょっと休憩しない?」
「あー、そうだな。昼休憩にでもするか………つーか障気濃くなってね?」
「だねー………」
風で吹き飛ばしながら来たとはいえ、時間が立てばまた障気が漂ってくるのは仕方ないことだ。しかしここ、それだけじゃ説明つかないくらいに、濃い。
紫色に見えた障気の色も、心なしか濃くなっているように思う。
「あー、ハギ。一応聞くが体調は?」
「そこまでかなぁ………うん。ちょっとヤバめ」
マジかぁ………いや、うん。ここまで濃いとやっぱ耐性すり抜けるか。
割とマジでグロッキー状態のハギは木を背に座り、水を数口飲む。
「………まあ寿命は削れるし、スゲー痛いけど、弟子を苦しませるよりかはマシよな」
「?」
諸刃であれ、死ななければ安い。
生憎、痛みにはある程度の慣れはある。どうにかなるだろう。
そう考えて、俺は大気中の障気ごと、魔力の吸収する。もともと外部の魔力自体が人にとって、摂取すれば毒と同様であるが、精霊にとってはその毒が食い物である。しかしその毒の中に別の毒が入っているこの場所は、些か魔力も吸収が悪い。そして現状を打破出来る魔法も少ないときた。いやぁ最悪だな?
「魔法発動」
吸収した魔力に形を与えて魔法にする──強い風が吹き、上から下へと水が流れるように、障気は風に乗って少なくなっていく。
「最悪、帰る時は跳ぶか」
「………賛成」
嫌々ながらも、どうやら長居したくないらしいハギは、そう呟いた。
寝 落 ち し た
てなわけで朝一投稿。書いてる間に寝てました。