第229話 第二学年夏期休暇4
「さて、準備はいいな?」
「オッケー。もう全然余裕」
「ほぉ………じゃあ飛ばすからな? 振り落とされるな──よ!」
王都から東へ二時間ほど歩いた場所は平原となっている。一つ森を挟んでの平原だから、一目もなければ道もない。ここから北へ真っ直ぐ進むと帝国へ行けるのだが………なんで寒い場所に国を造ったん? 温泉もありゃしねぇってのに。
そんな愚痴はさておき、俺は脇にハギを抱え、東へ向かって跳ぶ。いくらスキルや魔力が封じられても、ステータスと呼ばれる鎧までは剥がされなかった俺の全力の跳躍。跳んだ時の反動で多少大地が抉れていたが………まあすぐには気付かれないだろうから放置。
「きゃあああああああああああ!」
「おー、壮観だなぁ」
ハギが涙目でガチな力で腕に引っ付く。吸血鬼だからなー、高いところに慣れてたほうが後々有利だし、頭のおかしい飛行速度を経験していれば、まあ大体のことが『これよりマシ』という風に思えるようになるからいい経験だろうけど………やりすぎなければの話だよな。
「気軽すぎない!? というか離さないでよ!? 絶対に離されたら死ぬやつじゃん!?」
「大丈夫だろ。打ち所が悪くない限り回復すんだろ」
「うわー信用なんない! というか酷い! そして良く喋れるね!」
「慣れれば造作でもないな」
「慣れとは」
文字通りの慣れだ。この移動方法は………いつだったか。ステータスがカンストした辺りからか? まあいいや。前世で編み出したハイリスクハイリターンな移動方法………力加減を間違えたら酸欠で死ねるし落下時も着地に失敗したら死ねるし、まあ前世は宇宙にいってしまおうが顔面から着地しようが問題はなかったのだが………。
「そういや今、すげー脆い体なのな。着地失敗したら俺、逝くんじゃね?」
「物騒! というか何でそんな移動方法を選んだの?」
「無料だからな」
「無料なら仕方な………くないよね。ところで何時間飛び続けるの?」
「ん? あー………後数分くらいか?」
目の前に広がる景色から、魔族領内に入ったのはわかる。てことは数分くらいで到着すんだろ。たぶん。
「うへぇ………そういえばカルーってどこ?」
「んー? 山々に囲まれた田舎だな」
「ふーん………ドワーフが住んでるいかにもな場所なんだ」
「鉱山資源が豊富だからなー」
ちなみにその鉱山資源が呪われてるんだけどな。
「そんな国あったっけ?」
「国じゃなくて村な。ちなみに出来たのは二、三百年前な」
「へぇ………んん? 魔族に鉱山なんてあった?」
「なかったなぁ………」
「??? ちなみに『カドゥルー』って?」
「んー? 俗称つーか勝手に自称してる名前か? カドゥルーってのはそいつらの親の名前なんだが………っと、そろそろ落ちるぞー」
「え?」
手前に毒々しい山を捉えた俺は着地姿勢を整える。いやぁ死ななきゃいいけどな………心配は尽きぬ。
「え、あんな毒々しい山ありましたっけてか速い速い速い! 死ぬでしょこれ死ぬ──」
あ、気絶した。
とりあえず着地には成功。足が痺れてるが………生きてるし問題ないか。