第228話 第二学年夏期休暇3
見渡す限り青い空の一点に、直視できない光源が一つ。
俺達の体内から水分という水分を全て蒸発させて殺さんとしているように錯覚してしまう日の光を浴びながら、ハギと共に冒険者ギルドに向かう。
「そういや冒険者ギルドも一年ぶりか」
「私はたまーに行ってたよ」
「小遣い稼ぎには最適だろ?」
「そういう場所じゃなくない?」
小遣い稼ぎに最適だろ。ちなみに拓哉は「こんなに短期バイトがあるなら小遣い稼ぎに困らないな!」と嬉しそうにしていた。ハギと違うのは見方の違いかね?
そんな雑談をしながら冒険者ギルドの門をくぐる。ここは何年経っても大きな外見の変化がなく、併設されている酒場には朝帰りなのか昼から飲む輩もおり、それを見てどこか安心する自分がいることに気がついた。とりあえず依頼みるか。
ドラゴン系はA~Sランクの依頼にしかないから嫌になる。それ以下にあるならハギだけで向かわせたのだがなぁ………。
「………『竜』はあるけど『龍』はねぇなぁ」
「だねぇ………というか全部面倒そ」
「その分報酬金は高いからなぁ」
「それで生計を立ててる人もいるんでしょ?」
「今は知らねぇけどな」
昔──それこそ前世の頃は、冒険者一筋で生計を立てる奴が多くいた。当時は新しい時代が始まった時期だったから、土地も未開な部分が多かったのも理由だとは思う。未開の地を調査し、人類の活動範囲を広げていくのが『冒険者』という者達の仕事だったからな。
しかし今となって未開の地なんてないに等しい。強いていうならダンジョンであるが、それも高難易度を残すのみとなった。
この時代に『冒険者』というのは不遇な職種となっており、もう必要ないのかもしれない。
「………名前が変わらないだけ、か」
「? 何か言った?」
「何でもね。とりあえずギルマス呼ぶか」
「もうおるわい」
噂をすれば影がさす………ほどの噂もしてないが、いつの間にかギルドマスターことかつての酒飲み仲間ギロティは俺の背後にいた。
「よ、暇人」
「そこまで暇じゃねぇ。てかどうしたんだケイ。魔力を完璧に隠す術でも身につけたんか?」
「いんや? 普通に封印しただけだ」
「はい?」
わけがわからないよと言った様子で聞き返してくるギロティ。個人的にギルティと言いたいが韻を踏んでる場合じゃないな。
「んー、まあ説明すると長くなるから簡潔に言うとな?」
俺は一度言葉を切る。ゴクリとギロティが唾を飲み込む音が異様に響いた。
「人じゃなくなって肉体が崩壊しかけたからスキルと魔力を封印してその封印分のリソースで肉体の崩壊を抑えてる訳」
「うむ。わからんことがわかった。で、今回はどうしたんじゃ?」
「『龍』の討伐依頼はないか?」
スルー、だと………!? という呟きが横から聞こえたが無視。ギロティが不貞腐れた様子で『コイツの言動に一々驚いておると胃も心臓ももたぬわい』とハギを諭す。事実、俺はギロティから何度か『テメェの行動心臓に悪すぎるわ!』と言われているので頷いておく。
「それは知ってるけど………さっきのこと始めて聞いたし?」
「そりゃあ言う機会もなかったからなぁ」
「『言う機会を作らなかった』の間違いじゃろ………『龍』は帝国の手の者によって絶滅したとされておる。知っておるわけがなかろうに」
「あ、そうなの………」
マジかぁ………いや、いいけどね? ならば『冒険者ギルド』も調査しきれてない『魔族領』へ行けばいいし?
「まあ最悪は儂の地元………魔族領になるがカルーの『カドゥルー』でも殺してくれ。英雄になれるぞ」
「あー、アイツ面倒なんだよなぁ………まあ“格”としては問題ないし、交渉してくるわ」
「おー、頑張ってなー」
行き先決定ー。てなわけで退散。魔族領までの護衛依頼は無さそうだし去年のようなヘマはしたくないというより怒られるのはこりごりだから………跳ぶか。文字通り。
「じゃあ俺達行くわ」
「おう。じゃあなケイとその奥さん」
「ふぇ!? い、いやまだそんなのじゃないし?」
「おい。ウチの弟子をあんまからかうな。想像力の逞しいお年頃なんだからよ」
「お前さん言い方が酷くね?」
事実だからいいんだよ………ったく。こっちまで暑くなる。
あたふたしているハギの手を引きギルドを出る。ギロティが満面の笑みで見送っていたのがすげー腹立たしいけど今は急ぐ。
………コイツをあんまり、悲しませたくはないからな。
更新です! キャラが勝手に動いて全く大筋にない展開が始まったけど知らねーです! それもまた人生だ! (ヤケクソ)