第210話 第二学年一学期 魔術大会7 【拓哉視点】
「………凄かったな」
「ああ。良い戦いだった」
啓と共に、ハギさんに拍手を贈る。
ふと気になって啓の方を見ると、啓は優しい目でハギさんのことを見ている。その姿は成長した我が子を見る親に似ているような気がした。そして同時に、どこか啓がどこかに行ったような。これから更に遠くへ行ってしまうのではないか──そんな根拠もない不安に駆られてきて、俺は思わず誰もいない会場に目をそらす。
ハギさんとフレム家の令嬢の戦いは、とてもハイレベルだったと思う。魔法と魔法が激突し、両者の技巧が光っている戦いだったように思える。
俺にはまだ、魔法なんて全然わからない。けれどとても凄いとだけはわかる。逆を言えば、凄いとしかわからなかったわけだが。
「ただいまー」
「おー、おけーり」
まずは個人戦の一回戦、突破したな。と、ハイタッチをする啓とハギさん。
その姿は心を許した相棒というより、師弟関係や家族のそれに近いような気がする。どこか見ている俺まで、嬉しくなるような光景だ。
「おーい拓哉ー。なんだその顔。子供の成長を喜ぶ親か?」
「そんな顔してたか?」
「してたしてた」
そう言う啓だが、どうやらハギさんにはわからなかった様子。
「そうだお師様やお師様や」
「………どうした弟子よ」
変な絡み方をしたハギさんに、啓はどんよりとした雰囲気で答える。後に聞いた話だが啓曰く、あの絡み方は結構ウザくかつ執拗に質問してくるモードなので面倒、なのだとか。ついついいやお前師匠だろと反射的にツッコミを入れてしまったのは良い思い出だ。
「いやさ? さっきケイが使ってた………剣舞? してる時に精霊が視えたのが気になっちゃって………」
急に真面目な口調に戻るのも何か心臓に悪いというか………なぁ? とは後の啓の言。というか啓も何だかんだでノリがいいよなぁとは思う。あ、俺も気になったのでそれとなく説明を求めたらお前もかよ………というような表情をしていたので、とりあえず──
「俺だぞ? 神話民話伝承SFその他諸々が好きな俺だぞ? 気にならない訳がない!」
「うん。そりゃそうだな」
とりあえず納得してくれた。何故かハギさんが引いていたような気もするが………うん。まあ自分でもヤベェことやった自覚はある。
啓が何から話すかねぇ………と机を指でトントンと叩きながら思案を五秒ほどする。
「まあさっきの献納武舞のことだが………読みが甘いなハギよ。砂糖菓子に生クリームと蜂蜜を塗りたくって食べるくらいに甘い。つーかあれは精霊じゃねぇ」
「えぇ………? じゃあ何?」
若干、ハギさんが啓の例えに引いていたが………甘いものって相応のカロリーがあるよな。色んな意味で重い。
ちなみに俺も気になるのでばっちし聞いている。まあ精霊って啓の部下じゃないのくらいにしか思ってないけど。
「ありゃあ妖精だ」
「違いがわかりません」
啓がさらりと答えを言うと、ハギさんが即座に質問をする。
面倒だと言いつつも、懇切丁寧に教えてくれるところ、昔から変わっていなくて、どこか安心してしまう。
「まあ違いらしい違いが外見にないからな………ああ、まずこれは他言無用な。誰かに教えたら死ぬと思えよ?」
何かすげー怖い脅しを受けた。
俺とハギさんはその圧からか無意識に頷いていた。
啓によると大きな違いは『形の有無』と『意思の有無』だけなのだとか。形とはすなわち人の形か否か。意思とは動物のように己の判断で行動するか否か。ちなみに簡単な見分け方は後者。魔力を与えて命令して、その対応で見分けられるらしい。たまーに騙す妖精もいるらしいがそこがご愛嬌だと。
どうやら精霊と妖精には明確な区別はきちんとあるらしい。ただそれが知られていないから、俺達に話を振り撒くなと前置きをしただけらしい。怖かったのだが。
「──俺が舞ったのは生まれたてのすぐにでも消えるような妖精達に献納する舞だ。拓哉は剣裁きだけ参考にしとけ。ハギ、俺は今回あれしか使えないと心しておけ」
「はーい」
「り、了解」
確かに参考になるんだけど………俺、あんなアクロバティックに動けないんだが。まあそれを抜きにしても参考になるけど。
ハギ視点でリメイク版出そうぜ~、と思い付いたはいいのですが久々に「文章書くの、むずかちい」と思いました。