第209話 第二学年一学期 魔術大会6 【ハギ視点】
──試しとして、剣に魔力を通す。
うん。性能はぼちぼちかな。魔力への耐久性もそこそこだし、無茶な使い方をしなければ壊れることはないかな?
魔力と共に通した魔法から得た情報を解析していると、ふと実行委員の人に肩を叩かれた。
「スカビオサさん。入場お願いします」
「はい」
『──二年首席に次ぐ『魔導の天才姫』! ハギ・スカビオサ!』
大きな歓声があがる。
そして同時に、緊張も襲ってきた。さっきまで、ケイの戦闘を見ていて、それで少しは和らいだと思っていた緊張が、不安が、襲ってきた。
『対するは遥か昔からこの国を支える『炎』の系譜。かつては人類の裏切った『勇者』を一撃で沈めたとされるフレイ家のご子女! プルメリア・フレム!』
また、歓声が大きく上がる。
その歓声と共に、深紅のローブを見に纏い、フードで顔が見えない少女が入場する。
少女──メリアちゃんは、口角をひきつらせて笑う。
「まさか、初戦からハギと当たっちゃうとはねー」
「私もメリアちゃんと当たるとは思わなかったよ」
我ながら不幸だけどね──と、呟きながらフードをとる。
「絶対に、ただでは負けないよ」
長い赤髪をなびかせ、その金色の瞳には闘志を滾らせ杖をこちらに向ける親友に、私は剣を構えて答える。
──やれるもんなら、やってみろ! と。
「──はじめ!」
審判の合図と共に、私は地面を蹴る。
剣技にそこまでの心得はない。護身術の一つとして習っていただけで、実際に使ったことはない。使うような事態もないし、私には魔法があるから、使う場面が皆無なのだ。
だから魔術大会は少しだけ楽しみにしていた。
「──ファイアショット・ダブル!」
メリアちゃんは、距離を取った私に、容赦のない魔法を放つ。
火属性中級魔法………一撃がとても重たい火属性の中でもトップクラスの攻撃力を持つ危険な魔法。
とはいえ魔法師同士の決闘で、中級魔法程度は普通だ。私は剣に魔力を通して、目の前の地面を剣先でなぞる。
「──魔法誘導」
朱色の魔力に、紅い弾がぶつかる。
「なっ──」
「驚いてる暇はないよ?」
煙から飛び出して一薙ぎ。メリアちゃんはそれを難なく避けて、新たな魔法を紡ぐ。
私も左手で魔法を紡ぎ、メリアちゃんと対峙する。
「フレイムラピッド!」
「魔法誘導!」
私が真横の空間に『魔法誘導』を叩きつけたのと、メリアちゃんの魔法が出来たのはほぼ同時。しかし魔法弾の数は多く、『魔法誘導』で全ては対処できない。
「『風砂剣』!」
私は当たると爆発する風と砂の入り雑じった刃を作る魔法で炎の弾を迎撃する。
「やるわねハギ………でも、まだまだ!」
また何十もの魔法陣がメリアちゃんの周りに展開される。
………あれは初級魔法じゃあ対処できないかも。
「『魔法収束』っ」
地面に手を置き、魔法陣を設置する。『魔法誘導』の上位版であるこの魔法を設置した地面に八割以上の炎の弾が向かう。
「『反魔力』」
そして残りの二割を、魔力を剣が壊れない程度に循環させ、よーく見切って魔法を斬る。
「………『爆風砂』」
私は攻撃が止むと同時に、『爆風砂』を発動して、爆風を使って素早く回り込んで剣で一撃入れる。
「──っ!」
着弾の爆風で作った『風砂剣』を横薙ぎに振るい、爆風を解放して、爆風に逆らわないよう後退する。
「………私の勝ち、かな」
煙が晴れた闘技場で、私は一人呟く。
それに一拍遅れて、審判が結果を宣言する。
「勝者、ハギ・スカビオサ!」
その宣言と共に、どっと歓声が湧き上がる。
正直うるさいけど、気分としては悪いものじゃないなって思う………あ、ケイ達も拍手してる。
「あーあ、負けちゃったわ」
ローブについた砂埃を払いながら、そう言って握手をもとめるメリアちゃん。
私はそれに応じる。
「私に勝ったんだから、準優勝くらいはしなさいよ………次は負けないんだから」
「私は次やっても勝つよ、けど優勝しろって言ってほしかったなあ」
「無理よ。あの『怪物』………ハギの師匠は強いんでしょ?」
「まあね………」
私は苦笑いで答える。けれどいつか、ケイを超えること──それが私の目標なんだ。
だからまだ勝てなくてもいい。いつか勝つから──それが弟子にできる師匠への最高の孝行だと思うから。
何故かハギの方が主人公向いてるじゃないかと思い始めた今日この頃。改訂版みたいな感じでこれを一から書き直してみようかなぁ……ハギ視点で。