第208話 第二学年一学期 魔術大会5
無事に一回戦目を終え控え室に戻ってみると、拓哉が一人で頬杖をついて会場を見ていた。
「よ、ただいま」
「おかえり………って、それ着たまんまなのか」
「おう。後もこれで戦うからな」
俺は汚れないように気をつけながら、拓哉の隣に座る。
と、そこで拓哉が俺の服装を見ていることに気づいた。
「どした?」
「いや、その服装………和服だよな? 狩衣にしては質素すぎるし」
検分するように、俺の衣装を見る拓哉。
まあこれ、人間領じゃ着てるやつも、作る文化もないから仕方ないっちゃあ仕方ないんだが。
「これ狩衣ってのは半分正解。ただこれは狩衣というより儀式用の水干なんだな」
「………じゃあ、袴じゃないのは動きづらいからか?」
「それもあるが………これが作られた当時の獣人国の技術だと量産が難しくてな」
何年前だったかなぁ………少なくとも千年以上は前のことだ。五千年前かもしれない。
だがあの頃は、まだ今ほど技術も技術者も足りなかった。文明が始まって何百年とも経っていなかったし、技術者以前に人が足りなかった。他にも色々あるが当時の技術で量産するとなると、これが限界であり、かつ今より固い文化だったのだ。それこそ肌を見せることなんて破廉恥というくらいには。
「なるほどなぁ………だから観客がざわめいていたのか」
「だろうなぁ………」
何故かこの時代、人間は獣人と魔族それぞれを敵視しているように思える。
理由はわからん。俺が眠っている間に大きな衝突は無かったらしいし、ここがよくわからない。
だがそれで利を得ている人間もいる………のだろう。残念なことにな。
「お、ハギさんの戦い始まるぞ」
放送から選手入場の合図がする。片側からはハギが。そしてその向かいからは──
「──フレム家。昔から火属性魔法の使い手の多い貴族、か」
「そもそもハギさんなら、どんな相手でも勝てるんじゃ?」
「それがそうでもないのよなぁ………」
「わけわからん。後ハギさんも剣使うの? 説明よろ」
疑問符を浮かべる拓哉に、とりあえず説明することになった。
「ハギは吸血鬼………まあ一番対人に特化していて、魔術大会でも活躍できるわけだ。しかし基本的にはこの大会とて、殺人はご法度。それこそ、同格相手に本気でやって殺しちゃった──は通るんだけどな」
ハギは学年次席だ。それ相応の実力も持っているし、同年代ではトップクラスと言っても過言ではない。
だからこそ力を抑える必要があるのだが、まだそれを身につけるには早い時期なのだ。それこそ『吸血鬼』の一人前の証たる眷属もそろそろ作ったり、体の一部を夜に紛らわす魔法も覚えていないハギが力の放出を無意識に抑えないように………。
「『吸血鬼』という種のスペックは高い。だからこそ、その力を恐れず使う必要がある。だから剣はある種の『制限』だな──まあ、俺も知らなかったし、それを放任と言われればそれまでの話だけどな」
「………そうか」
拓哉は納得した様子で、会場に視線を向ける。
──ハギとフレム家のご令嬢の戦いが、今、始まろうとしていた。
これからの話でどのようなことをするか──この章がこの物語の折り返し地点になりそうですね。
まあ行き当たりばったり……執筆の場合は書き当たりばったり? で書いてますので、私にもどうに進むかわからないというね。