第206話 第二学年一学期 魔術大会3
魔術大会は半年かけて行われる王都でも大規模な学園祭だ。
これがあるからこそ、俺達の通うスフォット学園は王都最高峰にして最大規模の魔法学校とされていると言っても過言ではない。まあ歯に衣着せぬ言い方をしてしまえば、過去の栄光にすがっているだけでしかない。
そんな無駄に歴史だけはある学園だが、その校風は結構ゆるい。実力が無ければ入れないが、入ればそこそこ質の良い授業を受けられるし。
まあそんな校風の学園だ。大会で何を着てもいいというところは緩さというか多様性というか………とにかくありがたい。
全生徒が己の全力を出すようにという配慮が、とてもありがたい。
でなければ、俺の衣装──狩衣とて、使えなかっただろう。
『──対するは今年度二年生主席。圧倒的な魔力と卓越した魔法技能に底の見えない新星! ケイ・クロヤ!』
わっと歓声が上がる──が、それも俺が日の目に出てくるまでたった。まあ当然だな。この衣装は一部の『獣人族』に伝わる有名な民族衣装なのだから。
ざわめきはあっという間に広がり、どこか嫌悪するような視線が向けられてきたのを感じる。お馴染みの視線だが、やっぱ差別というのは戦争がなくなっても失くならないものだ。そう強く感じる。
「………ハッ。気でも狂ったか学年主席」
「どこが? 狩衣だって立派な戦闘衣装だ。伝統だの文化だので差別して、中身も知らずに毛嫌いしてる奴らのほうが余程『気が狂っている』ように思えるけどな?」
「なんだとっ………」
完全に売り言葉に買い言葉となってしまったが、相手方の青髪の青年はどこか親の仇が目の前にいるかのような視線を向けてくる。
………いくら殺傷が禁止されてないからと言っても、得物自体は刃が潰されてるんだけどな。
「両者、位置につけ!」
とはいえこの国………いや、この貴族社会に蔓延る人種差別はどうにかしないとな。
「調子に乗るなよ平民風情が」
「………」
その平民がいなけりゃ、貴族は貴族である必要もないんだけどな………拓哉の代で王政を終わらせるよう働きかけるか? いや、まだ拓哉が国王になると決まったわけじゃないが。
お互いにある程度の距離を置き、構える。
俺は左胸前に柄が来るように構え、左目を閉じる。
今からやろうとしていることは、俺にとって難易度の高い事柄となる。しかし魔法が使えない現在、これしかマトモに戦える方法もないのだ。
「──はじめ!」
審判の合図と共に、俺達は動き出す。
「──献納武舞『風花』」
次回から戦闘開始です。啓の視点ではない模様