第205話 第二学年一学期 魔術大会2
魔術大会と銘打っているが、実のところこの大会で魔術を見る機会はない。もともとは魔術“大会”でもなかったのだが………歴史というのが積み重なり、文化は変化していくのだろう。この行事もまた、昔とは変わっているのだ。
その変化があるのは、きっとその変化があった時代にそぐわない行事だったからだろう。
そしてそぐわない文化は廃れ、いずれ表舞台から消えていく。
「魔術『大会』………物騒すぎね?」
「だねぇ………」
今の『魔術大会』は、殺伐としているとは知っている。事前にそれは知らされていたし、殺し合いに発展する事件も過去にあったと聞いている。
だが、それの被害者になりかけるとは、思いもよらないだろう。
睡眠薬の入っている液体を見ながら、俺とハギは頬を引き攣らせる。これを知れたのはハギの『鑑定魔法』のお陰だ。練習させていたのが、薬学を教えていたことが功を奏したとも言える。
「昔は『庶民殺し』とかもあったから、今でもそれが密かに残っていたか? それは特段おかしくないが………」
「薬学を学んでおいてよかったって今日ほど思ったことないよ。怖すぎないこの学園。今から転校の意思伝えたら棄権できるかな?」
「諦めろハギ。今時期止めても意味ないし、受理されるのは大会後だ」
「デスヨネー」
ハギは遠い目をして言う。
まあ………こんな学園でも王国最高峰の一角を担う学園ではあるし、生徒の素行や教師の性格の悪さこそあるが、授業内容の質はとても良い。卒業後も結構いい所に行けるし、後一年と少しの辛抱でしかない。
「ちなみに魔術大会で力を示して『近づいたら殺す』宣言すれば人が寄ってこなくなるぞ」
「そこまでする気はないけどさぁ………」
出来ることは否定しないのな………いや実際できるとは思うけどな?
まあそれを実行しようとしないのは良いことだ。これから過ぎた力に溺れなければ上出来と言える。
………それまでは、生きていられるかね?
病人臭い思考に苦笑し、俺が一つ頭を振れば、それと同時に俺達のいる控え室の扉が開く。
「よっ、お二人ぃ………と、啓達も暗いな。何かあったか?」
げっそりした表情で、拓哉は控え室の隅に座る。その首元には無数のキスマーク………まあ気づいていないなら、俺は何も言わん。あそこは闇が深くてあんまり関わりたくないし。
「ああ………飲み物に睡眠薬が入っててな」
「………出された水がすごーく飲みにくくなったんだけど!?」
あー、まあ気になるよなぁ………ハギは俺を一瞥して一つ頷くと、とてとてと拓哉の持つコップに近づき、先ほどのように『鑑定』の魔法をかける。
「………あー、大丈夫ですよ」
「その少しの間が気になるんだけど? ………あー、まあちょっと待ってろ」
拓哉はそう言って、呼び鈴で使用人を呼ぶ。王家の後ろ楯もあるお陰か、トントン拍子で話は進み、いつの間にか控え室は少し豪華な場所に変えられた。
「………拓哉、お前も変わったなぁ」
「男子、三日会わざれば──ってな」
まあ慣れないとやってけないし………という哀愁漂う一言は聞かなかったことにして、俺とハギはその変化に感心したのだった。
新しいモノだけが全てではないと思います。古き良きもまた然り。
偏った思考は視野を狭める要因のように思えますがどうにしようと考え方って偏りますよね。残念なことに。