第203話 第二学年一学期7
「──もう手遅れかと」
「「デスヨネー」」
ハギは個人練習をしたいそうなので、そのまま先ほどの空間に残り、俺と拓哉はライアに道徳観に関することを相談していた。
「そもそも、気づくのが遅すぎるのでは?」
「いや、あいつ転生者だぞ? 箱入り娘ではあったが道徳観の一つやふた──はい何かすいませんでした睨むな」
視線だけで殺さんとばかりのライアの睨みに背筋が凍る。実際に殺すことはないのだが、やはり殺意を向けられるとなぁ。
「………とりあえず、ここは師匠であるマスターが責任を取るべきでは?」
「だな。俺もライアさんの意見に賛成」
「いや責任をどう取れと」
土下座か? 得意でも不得意でもないが………そもそも謝ったところで何にも解決しないよな。じゃあ責任をとれたわけじゃないな。
………責任、か。
要領を得ない俺を、どこか残念そうに眺める拓哉とライア。
「………ここってガツンと言葉にしたほうがいいですかね………」
「………いえ、マスターの場合それでも否定いたしますし、万事休すかと………」
「おーい、お二方。その会話聞こえてるからなー?」
何だよいつぞやの仕返しか拓哉。まあこれは自業自得かもしれない。
責任の取り方なぁ………一生、付き添えばいいのかね? まあ、無理な話ではあるが。
「とりあえず拓哉。お前さんの実力も見ようや」
「おー」
「いってらっしゃいませ。ところでタクヤ様。夕食はどうなさいますか?」
「あー、特訓終わったら帰ります」
「かしこまりました」
ライアは夕食作りに戻っていく。俺と拓哉も厨房から出て、再び造られた空間へ入る。
「にしても珍しいな。拓哉が飯を食わずに帰るなんて」
「ウチ、今日は早く帰らないと嫁が怒るんだよ………」
おお………完全に尻に敷かれていやがる。
同情を禁じ得ないが………まあ御愁傷様と。
「じゃあその嫁さんの為にもさっさとやるぞー」
「おうよぉ!」
そう返事をした拓哉の声が、心なしかいつもより元気そうに思えた。
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「──そういえば、タクヤさんの魔法って何なの?」
夕食後、ふと思い出したのか、ハギはそんなことを聞いてきた。
「んー? 錬成魔法だな」
「へぇ………え? あれで戦うの?」
ソファーでだらりとしていたハギは、急にシャキッとした様子で話を聞く体勢をとる。
「案外使えるぞ? てか拓哉の場合はそれしかないからな………」
誠に残念だし、何故それにしか適性がないんだよお前『転生者』だろと言いたくはなるが、どうにもならないことに文句を言っても意味がない。
「へー。で、どうに戦うの?」
「そりゃあ内緒──と言いたいところだが、まあ公平を期すために教えてあげようではないか」
「え、何その上から」
「お前、俺一応は師匠だからな?」
距離感はそんなんじゃないから忘れてるかもだが、俺とハギは師弟関係で繋がっているだけだ。それも最低であと一年と少し。
「あー、忘れてた」
「おーい。まあいいや。拓哉の戦いかたな」
俺は読む気の失せた本を閉じ、テーブルに置いて湯飲みに口をつける。緑茶が美味い。
「拓哉は『錬金術』やそれに類する魔法や魔術。それらに凄い適性を持っている。他は全然使えないんだよ。不思議なほどにな」
次回から魔術大会です。学園編もそろそろ後半。今年中に終わるかなぁ………微妙なところです。