第202話 第二学年一学期6
精霊は万物に宿る。
土や火はもちろん、俺たちが着ている服や使っている家具にも、微かながら宿っている。
無論この空間にもいる。個体数は少ないし、少々特殊。前に使った空間もいる。
そんな精霊に、この空間を維持している精霊に、俺はアクセスする。本来の精霊とは異なり、役割を与えられた精霊に、アクセスして、土で出来た人形を造り出す。
「よし、じゃあ狙え」
「はーい」
「はい?」
疑問符を浮かべる拓哉を他所に、ハギは嬉々として己の右手首を噛み千切った。
「《我が決断、この血に懸けよう》」
「《我が血弾、意志を貫く為の力》」
重力に従い、落ちていく筈の血流は空中に留まる。
ハギはその両目を金色に輝かせ、可視化されるほどに膨大な魔力を統べ、血液と混ぜていく。
「往け、『血弾』!」
微かに光る赤黒い弾丸が土人形に放たれる。
「──ハギよ。忘れたのか」
「………あ」
血液を固めた弾丸は、見事に土人形に当たった。しかし壊れてはいない。血がへばりついただけだ。
「確かに『血魔法』は魔術大会もとい対人戦では切り札なりえるが……土人形は人型なだけで生物じゃねえぞ?」
「そうだった………」
「あとお前、学園では『エルフ』で通ってるんだから、その魔法は使えねぇぞ? じゃあそれを踏まえてもう一回な」
「はーい」
どこか不服そうに返事をしたハギは、瞳を閉じて瞑想を開始する。
一秒、二秒、三秒………静寂が空間を満たす。今の俺には魔力を捉えることも覚束ないから、更に強くそれを感じる。
「──《地を揺らせ》」
魔力を込められた言葉が、ハギを中心に地面を揺らす。
「──《ひび割れよ》」
ハギの周り。揺れていた大地にひび割れが生まれる。
その姿は、魔法士のそれと見て遜色ないように思える。身内贔屓かもしれないが、着実に成長している姿を見れたのは、とても喜ばしいことだ。
「──《研がれ、磨がれ、尖れ》」
ひび割れ、宙に浮いた小粒の岩石群が、ハギの言葉によって更に磨かれ研がれ、尖っていく。
「《撃ち穿て》──『岩粒弾』」
無数の鋭い、岩の魔弾が土人形に当たる。
人形は砕け、その体を形作っていた土が、弾が当たる度に宙を舞う。
全弾撃ち終えた頃には、土人形はその形さえ残していなかった。
「………いや、オーバーキルにもほどがあるだろ」
「え………あはは。興に乗っちゃってついつい………」
笑い事じゃねー。つーかハギ、もしかしてヤバい趣向してしてんじゃねえの?
道徳観、倫理観も育てるべきか………とりあえずライアと相談するってことで。
何とかは飼い主に似ると言いますからね。仕方ないですよね