第195話 第一学年三学期7 【拓哉視点】
バレンタインは神聖な行事だ。
恋人達のための、特別な一日だろう。
余談だが、海外でのバレンタインは恋人に花やケーキ、手紙を贈る風習がある。
手紙は花やケーキに着けて贈るのかもしれないから、俺は簡単な手紙と五本の薔薇を見繕った。
「ただいまー」
広大な屋敷の扉を開ける。
この屋敷に使用人はいない。正確に言うと、日中に仕事をして暮れには帰ってしまっている。
どうやらお姫様………サーシャは、厨房にいるようだ。
靴を履いたまま家の中を歩く文化──土足文化には未だ馴れそうにない。
ここは会社だと思えばマシなのだが、そうすると気張ってしまう。
………まあ、それも自分の部屋までのことだ。ホテルと考えてもいいのだが、大人なホテルを連想してしまうので、洋風の宿屋と認識している。
「ただいま………」
この部屋に入って………もう半年以上か。それだけ経つというのに、私物といえる私物が少ない。
あるのはシングルベッドと長椅子、テーブル、本棚だけ。
テーブルには何も置かれていないし、本棚にもそこまで本は入っていない。
俺はテーブルに花と手紙を置いて、部屋着に着替える。
王族やその関係者の衣服ともなると魔法が付与されているらしく、ちょうどぴったりすぎてちょっと怖い。
「はぁ………」
過去にあんな扱いをされてはいたが、別にサーシャのことは嫌っているわけじゃない。
けれど俺にも事情がある。
オジサンだから、若い子をそういう目で見れないのもある。
………娘、思い出すんだよなぁ。
「あー、やめやめ。そう悩むのはケイだけで十分だ」
「あら? 何の話ですの?」
「!?」
取り繕わず言おう。ゾッとした。
これも毎度のことなのだが、サーシャは背後にヌッとあらわれる。慣れる気配がない………いや、慣れたくない。慣れたら負けな気がする。
「いや、何でもない」
「そう? そうだダーリン。ご飯、できたわよ」
「ああ………サーシャ」
「? 何?」
俺は花と手紙を渡す。
少し照れ臭さが勝つ。けどまあ………俺も一方的に好意を貰うのは好まない。
「これ、バレンタインだからさ………サーシャ?」
「──」
へんじがない。ただの しかばねの ようだ。
ではなく、呆然としている。
「………ありがとう」
「あー、恥ずかしいから手紙は寝る前に読んでいただけると」
「ええ、そうするに決まってます! さあ、私からのバレンタインも受け取ってくださいまし!」
そういって、サーシャは俺を引っ張っていく。
………やっぱ駄目だな。ああいうのは苦手だ。
三日連続投稿? マジだ。
勉強してるといつの間にか小説書いてるんですよね…