第194話 第一学年三学期6
ハギはチョコレートケーキを渡すだけ渡して、湯浴みに行ってしまった。
あいつ、勢い任せにやったな? どうせライアが背中を無理やり押したんだろ。
「………ったく、誰に似たのかねぇ」
「誰が見たってマスター以外いないでしょう」
だよなぁ………はぁ。似なくていいところだけ似ていくな。
「随分、お前にしては肩入れするじゃん。絆されたか?」
「まさか。可愛いモノを贔屓するのは別段おかしなことでもないでしょう?」
「まあな」
俺にとっても、大切な愛弟子だからなぁ………ただ感性が俺たち寄りになってるのはヤバいな。
「──とりあえず、食うか」
「ええ、ハギが頑張って作ったのですから、味わってくださいよ」
わーってるての………ホント愛されてるな。ハギ。
俺とは大違いだ。
一切れいただき、俺は咄嗟にコーヒーを飲む。
「──美味い。けどそれ以上に甘いな」
「それはそうでしょう。ハギが想いを込めて作ったケーキなんですから」
甘い。甘過ぎだ。味と共に、ハギの悪戦苦闘した情景と出来上がった時の達成感が、伝わってくる。
「………どうだった。ハギに料理の才能はあるか?」
「程々、といった程度ですね。基本に忠実なのは、どこかの誰かの教えのお陰でしょうけど」
誰だろうなぁ………あー、甘い。砂糖吐けそう。
「ホワイトデーはどうします?」
「チョコレートの菓子を作って贈るよ」
三倍返しってのは無理だが、それくらいはな。
それを聞いたライアは、何故かクスクスと笑う。
「おや、私が聞いた話ですとホワイトデーにチョコレートの贈り物をすることは『現状維持』の意味があるとのことですが?」
「………お前、意地の悪い質問してくるなぁ」
そう言っても、ライアは笑うだけ。
………はぁー、こいつに口では勝てそうにないわ。
「──俺が先短いことは知ってるだろ? 持って後三年。最悪二年………どうしても報われないだろ」
「ハギは別に、マスターとの肉体関係を結びたいわけではないかと」
「わーってる。恋人関係だろ? ………それこそ辛いだけだろ」
別れというのは、親しい仲であるほどに辛い。
ならば恋人でいるより、馬鹿やって笑いあえる、今の関係のほうが悲しみは少ない。
「それだけわかっていても、ですか」
「ああ。まだハギの想いには答えられん」
「──『まだ』ですか」
そう。『まだ』だ。
これからハギが、とてつもない急成長を見せてくれれば、まだ答えられるかもしれない──もしかしたら俺自身、アイツの想いに応えたいのかもしれない。
「その『まだ』を引き延ばすための延命だ。
──そしてライア。お前知ってただろ?」
「ええ、勿論ですよ。マスターが思念を読み取れることくらいなら、ですが」
ほぼ完璧に把握してるじゃねえかよ………俺はもう一つ食べる。
「甘い。甘すぎる」
「コーヒーを淹れますよ」
美味い。けれど甘い。なのにそれだけじゃない。
なぜかとても、暖かかった。
実は昨日には書けていたというね…