第190話 第一学年三学期2
「忘れてくんせぇ………忘れてくんだせぇ!」
「訛ってるなぁ………」
「訛りすぎじゃね?」
「教えたの誰よ………」
チラリと誰が教えたか知るライアとハギ、そして勘の鋭い拓哉が俺の方を見る。
「俺だな」
「やっぱり「「お前かい!」」」
おらぁ田舎っ子だから、都会さのヅッゴミの鋭さにびっくらこいたぁ。
「………いや面白半分でな? 教えたらハギがハマったんだべ」
「その口調やめい!」
ん? 何かおかしかったか? いや意図的におかしな口調にはしたが………とりあえず咳払い。
あとたまには師匠らしいことするか。
「ハギ、大丈夫だ。これから生きていく中でそれ以上の恥どっさりかくから」
「傷口抉っていくスタイルかよ」
「あれ? 拓哉さんもありましたよね?」
「うんやめて。敬称つけるのもだけど言ったら泣くからな」
一方で、その話に興味津々な女性陣。うーん。性格悪いな。
とはいえここらで会話は打ち止め。ライアが新たに注いだ茶を飲み、各々がだらだらと過ごしている。
そんな中、園部がぽつりと呟いた。
「そういえば………なんで『吸血鬼』って『吸血』しないと生きてけないの?」
その言葉に一同沈黙。
ふと湧いた疑問だったのだろう。園部は沈黙に気付く。
「いや、別に変な意味はないけどさ? なんか気になってさ」
「あー、そういや確かに」
拓哉は園部の言葉に同意する。
心なしか五十嵐も興味はありそうだ。ハギは………まあ予想はついているのだろう。苦笑いを浮かべている。
「あのさ、俺見るの止めてくんない………?」
「いや、啓は知ってるだろ?」
「知ってるけども………」
やはりか。と言わんばかりの表情でこちらを見る拓哉。
はいはい。講義パートですねわかります。
「おーし、お前達! 『黒谷啓先生のよくわかる吸血鬼講座』始まるぞー!」
「いや何そのノリ?」
「ア○シアの先生のよくわかるメルヘン講座だけど?」
「知らねー」
というかパクりかよ。
てかハギ達もノリいいな………。
「ん? ライアはあっちに行かなくていいのか?」
「ええ、説明の補助を出来ればと」
たまーにコイツは従者らしいよなぁ………いつもメイドっぽいのに。まあそんなこと行ったらちと面倒だから、口には出さないが。
「じゃ、吸血鬼が吸血する理由を話す前に、吸血鬼のご先祖様………吸血鬼の歴史でも振り替えるか」
「歴史?」
「歴史というか進化──『吸血鬼』になるまでの過程だな」
未だに疑問符を浮かべているハギ。園部、五十嵐も同様だが、拓哉はどこか納得している様子。
「ま、最初から『吸血鬼』って種族じゃなかったってことだろ? もしかして蝙蝠が人の生き血吸って──とか?」
「んー、全然違うな」
「まあ無理だよな」
わかってたんかーい………って違う違う。説明せんとな。
頭の中で言葉を選びながら、俺は説明を始める。
「──遥か昔、何千、何万年も前のこと。魔法という概念さえ確立していない世界は、とても不安定だった」
当時は魔素溜まりという魔素の濃い場所が多く、天変地異なんて日常茶飯事。昨日の隣人が今日には死んでいたなんて良くある話だった。
「魔法という概念こそなかったが、この時から『ステータス』や『スキル』、また『神』という概念は存在していた」
だが、人類よりも前に生まれた生き物とている。人類が生まれるまでの過程は地球のそれとほぼ同じだ。環境は全く異なっているが。
「今回注目するべき点は『スキル』と『神』………とりあえずハギ。吸血鬼の持つスキルを挙げろ」
「はーい。『吸血鬼』だね」
「そう。地球の吸血鬼の代名詞でもある『吸血』だ。この『吸血』も、その時代にはなかったスキルだ。でも今はある………ハギならわかるんじゃないか?」
「スキルの発現?」
「正解。そしてスキルとは『技術』。繰り返し行ってきたことが技となり、ステータスに反映されたモノ………これは拓哉のほうが分かるんじゃないか? 何故に『吸血』がスキルになったか」
「『人食』………いや、神への捧げ物。そうか、血を抜いて捧げてたのか」
まあ『人食』のスキルもあるんだけど………これはまあいっか。
説明を続けよう。
「正解。まあこれは一部の部族しかやってないからな? まあその部族の中の一人が『吸血鬼』の祖先となるんだが………それだけじゃない」
俺はライアに頼んで部屋の灯りを消す。
そして火の精霊『へーロー』を喚び出し、胸の前で一本立てておいた人さし指の天辺に火の玉を。雰囲気あるなぁ。
「………いや、怪談でもやるの?」
「雰囲気作りも大事だぞ?」
まあ怪談ちゃあ怪談なんだけど。まあ呪われることはないだろ。
「話の続きだが………血を捧げるっていうことは、人体を傷つける必要があるってことだ。
でもその時代、鉄は希少だった。加工技術こそあれど、素材は不足していた。じゃあどうやって『血』を捧げた?」
問題として、四人に言葉を投げ掛ける。
これはハギが有利な問題かねぇ………などと思っていたが、律儀に手を挙げて質問の答えを口にしたのは、五十嵐だった。
「噛んで、傷つけた?」
「正解。まあそれを行う係がいたらしい。そいつらが血の味に執着していって『吸血鬼』の祖先の祖先が生まれたってワケだ」
「? 祖先の祖先ってことは………続きがあるのか?」
そゆことー。まあこれは他のとある種族の誕生とまるっきり同じなんだが………。
「その時代は『魔力溜まり』っていう人体に有毒な場所がそこらにあった。ちなみに魔力溜まりはわかるよな?」
「魔素が濃い場所だよね。魔獣が生まれやすい──あ」
どうやら、察したご様子で。
とはいえ説明せんとなぁ………あー、イメージをダイレクトに伝える万能器具はないだろうか。
「魔素溜まりってのは人体にも影響を及ぼす。人が魔力を持ってるからだな。この魔素溜まりと人が集まって暮らしている集落の位置がたまたま合致して、人から魔人になるわけだ。ま、環境に適応したわけだ」
無論、長い年月がかかった。何百年も経て、それらは完成したのだから。
「………」
「だから、吸血鬼はゾンビとは異なるものなんだ。あくまで俺が知ってるモノの中で一番類似してるのが、吸血鬼だったってだけ。だから吸血鬼とは呼ばない奴らもいる」
「進化ってやつか………」
「だなぁ………ライア、補足はあるか?」
「そうですね──では、ひとつだけ」
ライアは咳払いをして、それを告げる。
「『吸血鬼』がこの世界の生物と認められ数千年以上経ちますが、彼らは繁殖力が低く、生まれた吸血鬼には目に見えない特徴があります。それは──」
吸血鬼………色々欠陥を抱えてるけど、浪漫はある種族だよね。