第167話 第一学年二学期 体育祭21
「うわー、タクヤさんの作品凄いねぇ」
「昔から器用だったからなぁ」
まあ無自覚中二病なんだけどさ。
俺とハギは選手席で、拓哉が戻ってくるのを待つ。
拓哉、昔から神話とか好きで、その知識を披露してきたっけなぁ………。
お陰様でその手の知識は人並み以上に持ってると自負してる。
「どーせ拓哉のことだ。『あー、お題のモノより○○作りてー』みたいなことぼやきながら作ってたんだろうよ」
「へぇ………」
あ、こいつ興味無いな。
内心悟ったが別に口に出す必要もないので、俺達は競技終了後観客席へと移動を開始する。
午前の部はこれで終了。後は拓哉達の結果待ちのみ。これからは観戦するだけの時間となる。
「お、噂をすれば」
「すごい手、振ってるね」
ハギは少し嫌そうに言う。
わかる。わかるぞハギよ。
「………見なかったことにするか」
「それは駄目でしょ」
だよなー。真面目な奴め。
そんな会話をしていると、どこか満足げな拓哉が俺達に近づいてきた。
「よ、啓。ハギさん」
「お疲れー」
「お疲れ様です」
拓哉は早歩きで俺達に追い付くと、一言大声で言う。
「大 満 足 だ!」
「そうかーよかったなー。けど近くでやられると色々痛いからなー? 耳とか」
俺は耳を塞いだまま言う。
ハギは直に食らったようだ………ドンマイだな。
「………辛辣じゃね?」
「近くでやられて嫌なのはホントだぞ?」
「それは俺もすまないと思うけど、啓も俺が叫ぶの得意になった原因の一端を担ってるからね!?」
だから叫ぶでねーて。
俺は直に聞いてしまった。あー、耳がー。
「いや嘘だろ!? そんな繊細な耳してないでしょ!」
「まあな」
「あっけらかんと!?」
拓哉が叫ぶのを横目に、俺はハギの様子を伺う。
あーあ、目ぇ閉じて耳まで塞いじまって………。
「おいおいどうすんだ拓哉。ウチの弟子『大声恐怖症』になっちまったじゃねえか責任とれや」
「知らねぇよ! つかそう簡単に『不安症候群』になるかなぁ!?」
なんじゃねぇの? 全く知らないけど。
「………ちなみにだ啓。責任はどうとれば?」
「お前、そういうところ義理堅いよな」
そこが拓哉の良いところなんだけどもさ。
俺は少し考えて、ふと現実的で、理想的なことを思い付く。
お、ハギも目開いて耳塞ぐのも止めたか。
「んじゃあ、ハギを嫁さんとして貰うとかどうよ」
「ハード! ウチの嫁さん怒るんで勘弁してください!」
「………この国、重婚も同性婚も認めてるぜ?」
「知ってるよ! けど嫁さんが許さないから! それに──」
拓哉はそこで言葉を区切り、どこか羨ましげな視線をハギに向ける。
「──ハギさんには啓の方が似合ってるよ」
そしてそんなくさい言葉を紡いだ。
………確かに、そうかもしれんが。
「まあ考えてみてくれ。お前にとっても、悪いことばかりじゃないだろうからさ」
■■■■
結果からいうと、拓哉はぶっちぎりの優勝を果たした。
まあもちろん、拓哉は一人『止めてくれぇ………褒めないでくれぇ………過去の俺が暴走したんだよ』と供述しているがそれはさておき。
実際完成度は高いし、教会とかにあっても何の違和感もないだろう。
………まあ、秘密結社とかが持ってても納得なんだけども。
何はともあれ二日目も終了した。俺とハギは家に帰り、ライアと女神サマからお祝いされた。
「お疲れ様ですハギ、マスター」
「おー、お疲れ………」
食卓の席を囲みながら、俺は背もたれに全体重を預ける。
別に疲れた訳ではない。だが違和感というものはあるのだ。
「どしたのケイ?」
「なんでもねぇよ」
倦怠感、蟻走感、喪失感………言い表せない違和感を感じながら、俺はそれを言わずに、この一時を過ごすことにした。
「………」
遅れまして申し訳ありません。
現実が忙しかったり色々考えたりとあり更新遅れました。
さて、暗い雰囲気になりましたね。
シリアスな雰囲気の後は明るく──したいものですが、次回ついに物語の終着点を示します。
あくまで終着点の一部を示すだけで、完結はしません。
完結まではまだまだ………後二、三章はありますので、お付き合いいただけると幸いです。