第166話 第一学年二学期 体育祭20
~拓哉視点~
ついに俺の出番となった。
一応言っておくと、別に俺は緊張と無縁なんかじゃない。
ただ昔から期待されたりすることは多々あり、そういう場になれているだけにすぎない。だから──
「タクヤー! 頑張れー!」「タクヤなら優勝狙えるぞー!」「頑張れ勇者ーwww」
──待て! 一人変なのいたぞ!?
俺は思わず観客席へと視線を向ける。
あ、日由か! 腹抱えて笑うな! 露ちゃん困惑させるなよ!
………なんか緊張感、無くなった。
いや俺の持ってるスキルとか魔法とかと相性のいい競技だから、そこまで緊張もなかったけどさ? なんかプレッシャーみたいなの? それがなくなった。いやあるよりはいいけどさ………。
『それでは選手の皆様、位置についてください』
その声で、俺たち選手は用意された机へと向かう。
机は五つ。これは一学年、二学年、三学年別れて行う競技であり、今は一学年の対決。
机には銀の塊。おおすげぇ。これで銀の弾丸とか作りたいわぁ………まあ魑魅魍魎なんて未だに見たこともないけど。
そしてその横にはお題である形状が記されている紙な裏向きで置かれている。
話によると選手によってお題は違うらしいが………楽なのだといいなぁ。
『それでは始めます。いょーい!』
思わずずっこけそうになった。
しかし気合いで耐えて俺は皆に倣い用紙をめくる。
「な、な………なんだと」
『始めてください!』
俺の呟きはアナウンスにかき消された。
………くっそぉやってやらぁ! 『錬金の勇者』舐めんなよ!
半ば自棄になって、俺は作成作業を開始する。
まずは大きさ。
立方体の銀を『錬金魔法』の『物体整形』で直方体へと変えていく。
うっわ変形遅………そして魔力食らうなぁ!
そこまでしてふと、銀に強力な魔力が宿っていることを思い出す。
………この作業、終わるかなぁ。
■■■■
「しゃおらぁ! 次だ次ぃ!」
急に叫んだことで、お隣さんがビクリとしていたが関係ない。
結局銀を直方体にするのに時間をかけ、今しがた終わらせた俺は叫んで次の行程に移る。
俺は銀に宿る強力な魔力を操作して整形を開始する。
何故こんなことを行うか──それは先ほど直方体にしている最中、俺はふと銀の魔力を操作すりゃあ行けるかもと実践したことにある。
………出来ちゃったんだよぉぉぉぉ!
返せ! 俺の魔力と気力と時間を返せ!
そりゃあ俺が気付かなかったのは悪いだろうけどな! 自業自得と言われればそれまでだ!
俺は底を丁寧に魔法で平らにして、台の部分を完成させる。
次模様ぉ!
お題には何も書いてねぇんだ! 俺の中二心と創作意欲が疼くってもんよぉ!
等と内心奮起しながら四方に十字架の形を整形し、ふと我に帰る。
………よし、脚やるか。
俺は『物体整形』で銀を細くしていく。
細すぎると壊れそうだよなぁ………一応魔法で『圧縮』したり『錬金』はしてるから実際はそうでもないけど、これは気分の問題でなぁ。だからといってコップとかにあるハンドルつけるのもあれだし………んー。迷う。
「まあカップの部分いくか」
結局『圧縮』と『錬金』だけして、俺は最後の整形──カップの部分の整形を開始する。
今のところ計算通り………いや計画通りに出来ている。
いやさっきの恥ずかしい暴走はさておいてね? やべぇ恥ずかしくなってきた。前言撤回。全然計画通りじゃない。
さて、真ん中から穴を空けて広げて………あー、ハンドルつけちゃう? いやトロフィーになるだけだっての。俺のお題は『聖杯』だっての。
良い感じの形にして、最後に模様をつけていく。
台を十字架にしたからなぁ………何にしよ?
残り時間数分。俺は少し考えて、聖杯に模様をつけ始めた。
「(あー………これ、もしかしたら黒歴史になるかも)」
大声で叫んだし、凄い中二臭いモノを作ってしまったことに、多大な満足感と少しの後悔を抱えて、制限時間となった。
更新です。
やっぱ病院にはきちんと行ったほうがいいですね。花粉症に効くいい薬を貰えて起床時以外は快適です。
ところで皆さん「いよーい!」わかります?
とあるゲームのキャラのダメージを受けた時の声が実際は違うけどそう聞こえる──ってやつなんですが………まあ四月いっぱいでサ終するのですがね。
さて今回無理矢理に拓哉の『職業』をぶちこみました。ステータスは後日にでも。
一応この話での『錬金』は『万物の錬成を試す』という意味合いで使われます。刻印みたいなモノ──と考えていただけると幸いです。