第149話 第一学年二学期 体育祭3
「あー………もう動けねぇ………」
「喋る気力があるんだ。後二、三日はいけるだろ」
「それ啓の勤めてた会社の上司さんの話だろ」
そうなんだよなー。
俺は大の字に寝ている拓哉に水筒を渡す。
中身は自家製スポーツドリンク。
これも『地球の食べ物パクろうぜ』のノリでやったんだっけ。
「………なんだろうな。啓が異世界にある『ファンタジー感』をぶち壊しにしてくる」
「魔法とかあるだろ? 十分ファンタジーだよ」
そもそも、俺あんまりその『ファンタジー感』とかわからないんだよなぁ………ネット系だとそういうの多くあったけど、紙媒体の方が好きだったし、有名なのを少し知ってるだけだし。
「あのぉ………私にもわかるようお願いしていい?」
「………拓哉、説明よろしく」
「ねえ? 俺疲れてること忘れてない? いや、説明させていただくけど」
拓哉は起き上がり、一つ伸びをすると、胡座をかく。
………おい、そこ地面。砂の上。
「ハギさん。俺達………啓とか露、日由は別の世界から来たんだ。それはいいよね?」
「うん。啓だけは転生者なんですよね?」
「そうそう。で、その別世界では、この世界で使われる魔法なんてなくてね? そういう不思議──いや、空想の世界にしかないモノを俺達の故郷ではファンタジーって呼んでいたんだ」
「ファンタジー?」
「ハギには『幻想曲』の方が伝わるぞ。この世界でもオーケストラとかはあるし」
ちなみに、ハギは前世で少しはそういう曲を聞いていた。
魔法全盛期は娯楽も多かったからなぁ………もちろん。暗い側も栄えていた。
奴隷とか、な。
「………納得したよ。でも、それじゃあ何で栄えていたんですか?」
「啓、パス」
おい………そこで諦めんな。
俺そこが面倒で押し付けたってのにさぁ………。
「あー、うん。ウチの一室に類似品置いてるから、後で見せるわ」
「えー………まあいいけど」
ハギは残念そうな表情をするが、表現するのが難しい。
というか、箱の中に人がいるとか言われてもいまいちピンとこないのよ。
だからと言って細かく説明すると知識が追い付かずで………うん。やっぱ類似品を見せたほうが楽なんだな。
「走りきった者は教室に戻っていいぞ!」
体育教師からのありがたいお言葉をいただき、俺と拓哉とハギは教室に向かう。
ちなみに薗部は五十嵐と共に走っている。
「あ、そういや拓哉って美術部だったよな。絵で再現したらどうだ?」
「もう何年も描いてないから無理」
「だよなぁ………」
とはいえ、全然描いてないわけじゃ無さそうなんだよなぁ………なんだかんだで模写とかよくやってたし。
そういや漫画の模写とかもやってたし、高校の時は文芸部でイラスト描いてたっけ。
………で、美術部で創作漫画一冊だっけ? 確かストーリー考えるのを付き合わされた記憶がある。
「それじゃ、放課後まで暫し待たれや」
「はーい」
「あ、俺も見に行っていいか?」
「頼む。おかしなところあったら教えてくれると更に助かる」
拓哉は町工場で働いていた──というか工場長の息子だったというか………次男だから長にはなれなかったんだよな。
けど財務会計とかは拓哉が全てやっていたし、たまに製造のほうもやっていたらしいからな。
そういう知識は、結構ためになるし、更なる改良に使える。
「得意分野だ」
拓哉はニヤリと笑みを浮かべながら言った。