第148話 第一年二学期 体育祭2
体育祭といえば何を思い浮かべるだろうか。
一キロマラソン?
借り物競争?
二人三脚?
………どれも脚を使うんだよな。
ほら、綱引きだって魔法戦闘だって………。
前置きもどきはさておき、俺達は今、その脚を鍛えていた。
………なあ、何事にも限度ってものがあるんだぜ?
「よーし。休憩だー」
俺達は地面に寝転び、憎たらしいほどに快晴な空を見る。
畜生………暑いし風ないし最悪なんだが。
というか本当憎たらしい夕焼けだなぁおい。
「お疲れーケイ………」
「よ、お疲れ………ハギ」
「最初からハードすぎるだろ………」
拓哉とハギも寝転ぶ。
んー、まあハギも少し前走っていたが、あれは魔力で脚力強化した状態でたったからなー。
「というか啓が疲れてることに驚きを隠せん」
「隠す気もないだろ………一応人並みの生活を送ろうとしてんのよ。精霊なりにさ」
本来の俺のステータスなら、これくらいで息切れはしない。
しかし。しかしだ。
強力故に、力加減を少しでも誤ると、色々面倒なことになる。
………主に校庭が。
そんな訳で、いつも通り『制約魔法』でステータス縛り。
ちなみにステータスはその時の様々な要因によって少しだけ増減する。
まあ本当に少しなのだが………レベルが上がりすぎるとそれも本当少しも大きいのだが。
というかSランク超えた時点で人間辞めてるからな………まあ己のステータスを制限するのは日常生活を送る上で必須なわけね。
「私も、『制約魔法』使ったほうがいいのかなぁ?」
「魔力だけだし、お前さんの場合他のステータスも順調に上がってるからな………魔力の暴走もほぼありえんだろ」
そっかぁ………と、残念そうに言うハギ。
………ハギよ。お前、Sランクの面倒さを理解しておらんな?
まあ理解されても複雑だが………。
「おいおい、まだ息切れ一つしてねぇぞあいつ………」
拓哉が一人の青年に視線を向けていた。
背筋を伸ばし、まさに見本とでも言うべき立ち姿で地面を見ている青年に。
「………」
「すげえよな。あんなに走って息切れ一つしてないんだぜ?」
「それだけ、ステータスの恩恵と才能があるんだろ。後努力量も」
人によってステータスの育ちかたは異なっていく。
例えば俺の場合は全てのステータスが均一に育っていったが………ハギは魔力量だけが偏って成長している。
拓哉は器用さに特化しており、薗部は敏捷、五十嵐は知力特化だ。
俺は均一に育ったステータスを『万能型』。一つに特化したステータスを『特化型』と分けて呼び、ちと研究したこともある。
何十年何百年と研究し、それぞれの長所と短所について女神様に報告した。
………結構、まだ覚えてるもんだな。記憶。
「それだけか? なんか魔法とか使ってないのか?」
「さぁな。わからんよ」
「………」
ハギから冷たい視線。
おい止めい。俺は答えを濁しただけだぞ?
ちなみに飄々としている青年──デントは、走っている間魔法を使っていた。
物凄く静かな魔法だが、それでも観測することができた。
………精霊眼で。
「ハギ、使ってた魔法はわかるよな?」
「………『回復魔法』の『疲労回復』と『精神魔法』の『神経操作』?」
「正解」
俺は起き上がる。
少し伸びをするが、動くたび肌に付着する体育着にうんざりする。
………風も涼しいを通り越して寒く感じる。
「まあ、『疲労回復』の魔法は疲労を後回しにしてるだけなんだけどなあ」
「『精神魔法』を使って、その疲労を偽ったの?」
「そういうこったな」
回復魔法の一つ。通称『疲労回復』と呼ばれるそれは、肉体を最適な状態にする魔法。
ちなみに『回復魔法』と定義されるのは『肉体』に直接干渉する魔法のみ。
その他………例えば『洗脳』とかは『精神魔法』に分類される。
「今、あいつは痛みは感じていないが、体は重たいはずだぜ?」
「やっぱ無理しないのが一番だねー」
そうだなー。魔法使うとか面倒すぎる。
運動してる時は特に。
ハギもそれは身を持って知っているから、普通に走っていたのだ。
もちろん、少し脚力を強化していたが。
「………なんか仲間外れ感がすごいな」
「おい! 私語は慎め!」
「すいません!」
………この後、全員更に何周も走らされた。
わー、懐かしいなぁ………校庭 (一周二百メートル)十五周とか。
ちなみに語られることはないだろう裏設定ですが………
・啓は中高と文芸部に所属していた
・拓哉も中高と文芸部に所属していたが、高校では美術部にも入っていた。
・薗部はテニス部に所属していた
・五十嵐は美術部と書道部に所属していた
というのを、今作りました。
裏設定なので本編で描かれる可能性はないのですが、なんかパーっと浮かんだので後で話に困ったら使おうと思います (四章の最後に入れるかもしれません。ちなみに四章は私の気分によって長くなる可能性大)。