第138話 語られてきた伝承って結構真実とは程遠いことあるよな
さて、自業自得ながらも大さんをキレさせてしまったわけだが………マジでどうしよう。
………まずはあの魔剣を壊すか。
俺は振るわれた魔剣の刀身を掴む。
これで強引に刀身を折れたら………それはそれで楽ではあるが、実用性重視の魔剣にそれは悪手だ。
それに、もっと簡単な方法もある。
それは………。
「――! なんだこの魔力量は!?」
「俺の魔力だよっと!」
俺は魔剣に魔力を注ぐ。
――どんなものにも限界はある。
そう。俺は無理矢理魔力を押し込み、魔剣の持つ魔力許容量を越えようとしているのだ。
もちろんこれは俺でなければできない芸当。
無駄に魔力が有り余っている押し込みだからできる技。
「ハハハッ、まさか自ら自身の寿命を縮めるとはなぁ!」
俺は無視して魔力を注ぐ。
………これ、注ぎすぎても爆発するからなぁ………後どんだけ入れりゃいいかね?
そんなことを考えていると、刀身が割れていく音が聞こえてきた。
「!? なぁ!」
大さんが驚いてるが、俺の知ったことではない。
俺はこれが綺麗に割れる魔力量を見極めるのみ。
「バカな!? これは魔力を無限に喰らう魔剣だぞ!」
………いや、誰も無限に喰らうとは実証してねぇだろ。
まあこの魔剣が満足するほどの魔力を持ってる奴がこの世にいないだけなんだけど。
大さんが叫んでいる間に、俺は魔剣を粉々に砕く。
うむ。よい飛び散りっぷりだ。
「そ、そんな………無限に魔力を喰らう魔剣なのに………」
まだ言うか。いい加減現実を飲み込めよ………まあ無理な話かもしれんが。
「………世の中に『無限』なんてそんな都合のいいモノあるわけねぇだろ………」
無限というのは人が思い描いた空想の数だ。
世の中、全てのものは『有限』だ。
食料も自然も寿命も………それは魔力であっても例外ではない。
有限だからこそ、人々は争いを行うのだから。
もしも『無限』という概念があるのなら、もっと『争い』の少ない世界だっただろう。
まあ価値観による争いは無くならないが………それでも今よりマシな世界だったはずだ。
「………くっ!」
「――おっと逃がさんぞ。自らの罪を自覚して牢屋で反省しろ」
俺は小道具を使ってまでも逃げようとしたその心意気には感心しながらも、逃げられると厄介なので組伏せ、間接を外す。
「ぐぅっ………まだ、我は『時詠み』を………!」
未だに『時詠み』に執着するこの男………何なの? 御先祖様が『時詠み』に殺されたの? まああり得ないけど。
「『時詠み』を使えば俺に勝てると?」
「そうだ! あの力を我が物とすれば、お前なんぞ簡単に――」
それは違うんだけどなぁ………はぁ。まあ伝承はきちんと正しく伝えんとね。
俺は獣人の頭を抑え、目を見て言う。
「あのなぁ………ただの人が『時詠み』を御せる訳がねぇだろ」