第135話 反撃開始?
ハギ視点です
私の放った魔力で、大半の従業員は気絶した。
まあ、魔力に敏感な獣人だから、それも仕方のないことだ。
だけど上司さんは倒れていない………よっぽど精神力が強いんだろう。
まあ、私としては好都合かな。
「な、なん――!」
私は最後まで言わせずにその口を紐で塞ぐ。
そして手首足首を無理矢理拘束する。
触れたくもないので、魔力を器用に扱って紐を操る。
全員の拘束を終えて、私は魔力の圧を上司さんに加える。
「――! ――――!」
精一杯何かを叫んでいるが、それも意味ある音にはならない。
私は簡単な『暗示』を掛ける。
それはとっても簡単な『暗示』。
ただ、自身の過去の行いを言葉にさせるだけの暗示。
故に恐ろしく強力。
魔法は単純な効果であるほど効果が高いのだ。
私は口を塞いでいた紐を魔力を用いて取る。
そしてその口からはいくつもの彼らの悪事が垂れ流されている。
もっとも古いものから………現在のものまで。
ありとあらゆる彼らの悪事が、この場で語られていた。
この男はそれをさも当然のように良い放ち、最後は笑ってこう締め括った。
「どいつもこいつも………最後にした表情は最高だったよ!」
率直な感想を言えば、狂っている。
その人を実験道具としか見ていない物言い。
そんなひどい事を笑って言える神経。
本っ当に腐っている。
………いや、壊れているのかもしれない。
常識が。思考が。価値観が。
私は複雑な心情を一旦置く。
そして護身用に持たされた短剣を取り出し、男の首に当てる。
「――質問だよ。なんでそんな事をしていたの」
「……何でかって? 決まっているだろ」
男は不気味な笑いを発する。
「俺達はこの世に『神』を復活させる為にやってたのさ!
この腐った世界を浄化して!
もう一度創り直すんだよ!」
………私は唖然としてしまった。
それは唐突に大声で語ったからではない。
それは私も一度は思ったことがあるからだ。
私は前世でも今世でも不幸があった。
前世の私は自業自得なところもあったかもしれない。
今世の私は不幸が少なかったが、大切な人を失った。
どちらも私を絶望させるのに十分だった。
だからこそ、この世界を呪いもした。
だから、私はこの男の言葉に『共感』してしまった。
「なあ、アンタ。俺達と一緒に世界を変えないか?
こんな理不尽にまみれた世界をさ………」
それは甘美な誘いだった。
悪魔の誘いだった。
「俺達と一緒に………幸福な世界を作らないか?」
私は――突如、魔力の暴風が吹き荒れる。
私の比ではない。圧倒的な魔力が吹き荒れる。
こんな魔力を持っているのは、ケイしかいない。
「――『幸福な世界』。ねぇ………ちと理想が高すぎるな」
「………………ンだと?」
男の声の質が変わった。
ケイは平然とその『圧』を受け流す。
「だから、お前の理想は高すぎる………求め過ぎって言ってんのよ」
隔日投稿しようと頑張ったのですが、約一時間遅刻ですね。
次回からは啓視点です。