第124話 懐かしの味はトラウマの味でもある
やっと? の思いで『霊薬』を完成させたハギと俺は、ヨミの案内で奥の部屋に入る。
そこには顔の青い獣人の女性が寝込んでいた。
………まあなるべく早く飲ませるが吉か。
「ヨミ、料理してもいいか?」
「? いえ、僕がやりますよ」
ヨミはそう言いながら台所に向かう。
いや、確かにヨミは『器用』高いし料理は可能だろう。
しかし、残念なことに『料理』スキルは低いし、ヨミは生産活動に向いていないステータスだ。
それに俺が作るのはこの世界に広めていない食べ物だし。
俺はヨミに断りを入れて台所に入っていった。
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………さて、元々作るものは決まっていたので一時間もかからずに出来た。
作ったのはお粥。
ああ、懐かしい。
風邪引いて自分で作って親に全部食べられたのが懐かしくてムカついて………うん。俺、よく死ななかったな。
俺は鍋ごとお粥を持っていく。
さすがに子供にも与えないとな。
昔の俺なんて顔色悪いし体重平均以下だし、最悪な時は少し動くだけで間接が鳴るのよ。
それも地味に大きな音で。
………なんで思い出と言う名のトラウマを俺は思い出しているんだ?
意味わからん。そして地球の味は二度と作りたくない。
まあ日本人としての血というか本能が米を求める時があるから無理だが。
俺が部屋に戻ると、カレンがハギの膝を枕にして寝ていた。
端から見れば姉妹だな。相当仲のいい。
「すいませんケイさん。何から何まで………」
「気にすんな。それより、これ食べさせるのを頼めるか?」
俺は鍋からお粥をよそる。
そして獣人の国では余り馴染みのない匙を取り出す。
「箸だと食べさせ難いから、これで掬いなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
ヨミはお椀と匙を受け取り、親のもとに駆け寄っていく。
そう急がなくてもいいんだぞ?
親のもとに駆け寄ったヨミに気づいて俺に気づいたハギ。
………いや、うん………そういうのは俺でも傷つくからな?
『………ねえケイ。あれって………』
ハギは何かを思い出したようで。
まあ………うん。そうだけどね。
『あまり念話を無駄遣いするのやめね?』
『そういうケイも使ってるじゃん』
おっしゃる通りで。
いや、どうせ『念話』の魔力は俺が全て負担しているからハギには負担一切ない。
まあ俺の魔力をほんの少しだけ使うだけだから、負担にはならないが。
『それでケイ。あれってあれだよね? 前世で私とケイが初めて会ったときにケイが作った』
『ああ。お前、衰弱してるし人間不信になってるし………今だから言うが俺、あのお粥をお前が食ってなかったら無理矢理食べさせてたからな?』
数百年越しに教える驚愕の俺の内心。
あれ、確かギルドで受けた依頼だったんだよな。
たしか『分身』スキルで全世界の………いや、人族の闇市全てに潜入してたからな。
あの時ほど『処理』スキルに感謝の念を覚えたことはない。
まあその後も色々あったが。
ハギは俺の言葉に顔を青くする。
良かったな。過去の自分に感謝しとけ。
『あ、後でそれの作り方教えてもらってもいいですか?』
『いいぞ。ついでにヨミやカレン………カレンにだけ教えよう』
カレンとヨミのステータスを見た。
その結果ヨミは戦闘系スキルに才能が。
カレンには生産、魔法系スキルに才能があった。
俺はヨミがお粥を食べさせてた頃を見計らい、ハギが作った『霊薬』を取り出す。
………これは俺の仕事だな。
俺は『霊薬』と呼ばれた液体を一滴宙に浮かせる。
そして俺の『錬金術』で『昇華』させる。
これでこの『霊薬』は俺のオリジナルの『霊薬』に近づいた。
次はその『霊薬』を空間魔力を使って凝縮させていく。
この過程、実は魔導具が無ければ出来ないのだが、俺は『精霊』。
体外の魔力を操ることにも長けている。
そしてこの空間魔力というのは、どこにあろうと同じ属性なのだ。
その属性というのが『無属性』。
生物にとって『無属性』とは『属性変換をせずに魔力を扱う魔法』を指すのだが、空間魔力における『無属性』とは、純粋で害のない魔力を指す。
そんな魔力であるが故に、俺は空間魔力を『清浄機』と呼んでいるのだが、それはさておき。
俺は『霊薬』を空間魔力で包むように凝縮させていく。
魔力は過剰に凝縮させれば魔力は結晶になる。
その特性は空間魔力でも同様。
そしてその魔力の結晶――『魔結晶』は魔力を貯める特性を持つ。
だがそれは人が持つ魔力を使った時の特性だ。
………まあそれ以外にも魔力特性に応じて千差万別の特性を得るのだが。
空間魔力を使った『魔結晶』は全て同じ特性を得る。
その特性こそ、俺が『清浄機』と呼ぶ特性。『同化』。
この『同化』とは『魔力と同化し増やしていく』能力。
細かく言えば外からの魔力を吸収し、その魔力の持つ『特性』を無くし、空間魔力と同じ状態にするというものだ。
まあ吸収した魔力量が保有魔力より多いと、吸収した魔力の特性に同化してしまうのだが。
『凄い輝いてるね』
『これは『霊薬』の光だぞ』
きちんと『霊薬』が働いている証拠だ。
空間魔力で作った『魔結晶』に『霊薬』を混ぜる。
外部の魔力と『同化』できる『魔結晶』。
麻酔効果と驚異的な回復力を与える『霊薬』。
難易度が高い技術ではあるが、これらを『合成』した………まあ『霊魔結晶』とも呼ぶべき物があれば、魔力を吸収し続けてる間は『霊薬』を取り出せる。
これは外部の魔力を吸収して、『魔結晶』が『霊薬』の特性に魔力を『同化』させるから起こる。
まあこのままだと魔力が一定の量を超えた時点で液体として勝手に流れでてくるから、少々『魔道具』をつけさせてもらうが。
『………これ、私が『霊薬』作った意味あるの?』
『知っているか? 難易度の高い物を作ると生産系スキルはサクサクと上がるんだぜ?』
なお、これは俺の経験則です。
個人差は確実にあると思われます。
「さて、そろそろ『霊薬』飲ますか」
俺は『霊薬』をハギに渡す。
ちなみに『霊薬』の効果は………大さじ一杯くらいでも効果はある。
まあ適量はコップ一杯くらいかな?
実は俺、『霊薬』飲んだことないんだよな。
確か作ったのは世界的に流行った病を治すためだし。
「………あの……ケイ? 何で私に渡すのかな?」
「お前が作った薬なんだぞ? お前が自由に使っていいんだ」
これは俺の個人的なことなのだが、あまり他者の物を持っていたくない。
………いや、本当に俺の個人的な考えなんだけどね。
昔一回だけあった事件のせいでな………。
ハギは少し困惑したが、洗われた匙を借りて『霊薬』を匙一杯に取り出す。
うん。まあ最初はそんくらいで。
後は俺の作った魔導具の………『霊薬生成機』とでも呼ぶべきものから毎日コップ一杯『霊薬』取り出せば、数日で回復してくるだろ。
三月最後の投稿。
四月からは色々と忙しくなるので、投稿がもっと遅くなると思われます。
………一周年記念の番外編とかって投稿したほうがいいんですかね?