第122話 病人は実験台じゃありません!
「――以上が、僕の知っている『モーティブ家』の全てです」
俺はヨミの説明を整理していく。
まず『モーティブ家』とは、最近貴族の爵位を貰ったらしい。詳細までは知らない。
この貴族、主人は奴隷収集が趣味で、良く気に入った人物を奴隷にしているのだとか。なお、その守備範囲は相当に広いらしい。
ちなみにこの主人の『気に入った』には、様々な解釈の仕方があるが、大半が当てはまるらしい。サディストかよ。
そして『モーティブ家』が恐れられているのには、他にも理由がある。
それは財産の量がな? まあ賄賂だな。
ヨミが知っているだけでも、十回以上は金の力で『なかったこと』にしているらしい。
それ以外にも『麻薬密売人である』とか『妻は処女の血に飢えている』等々、どこかで聞いたことのあるような噂が多いこと多いこと。
色々噂が立っているのに、良い噂が一つも無いというのは………ある意味すげぇよ。
「一つ質問いいか?」
「ええ、どうぞ」
「その『モーティブ』以外の貴族はそういうことしてるって噂はないのか?」
「他の貴族ですか? あるにはありますけど、それは主に貴族のお子さんが問題を起こしたこととかしかないですよ」
「へぇ…………」
俺は『検索魔法』を使う。
検索内容は『今いる大陸の貴族の中で、外出している貴族の人数』。
結果は大半が家にいるらしく、外出している貴族も大半が商人貴族または都市貴族とかのみ。
それも押し売り販売かよ………一回反応したら負けだよな。
………ともかく、それ以外は………お、あったよ『モーティブ家』。当主の名前は………アブパス・モーティブ。ついでに妻名前はパラリア。
現在両者共に外出中………あ、密売疑惑って本当だったんだ。
とはいえそれ以外の貴族も密売までは手を出さずとも、少々賄賂はしているな。
まあ俺は興味ないし、罰則を与える立場でもないので、見なかったことにするが。
それに変に巻き込まれたくない。今更な事ではあると自覚しているが。
「? どうしました?」
「………なんでもない。それよりだ。お前、お母さんは大丈夫か?」
「え?」
ヨミ少年が断りを入れて席を立つ。
………純粋な少年………であれ!
奥の部屋から、ヨミの親を心配する声がする。
「(ハギ。質問がある)」
「(え? ケイからの質問? 何それ?)」
………お主が何故師匠への態度がそういうのなのか聞きたくなってきたが………まあ俺の自業自得だとは自覚しているのでいいや。
今はお前の事だ。
「(お前まだ。あの『魔法書』理解しきれてないだろ?)」
「(え? へ? 何のことかな?)」
ハギはどっかの精霊神さんに似て顔に出やすいタイプになったなー………ちなみに『ポーカーフェイス』というスキルはあるが『喜怒哀楽』というスキルで相殺できます。
そして俺は両方持っているのだが………『制約魔法』って使えるよな。
「(………別にそれを咎める気はないから安心しろ。でだ。お前がやりたければ………ヨミとカレンの親を治してみないか?)」
「(………回復魔法で?)」
「(違う。その『魔法書』を完璧に理解して、だ)」
なお、俺が買った『魔法書』。たった一つのスキルの為だけに二百ページ以上使っているのだが、これはスキル名を伏せて書いたのが理由であり、そこまで難しいことは書いていない………はず。
そういえば『魔法書』完成した時にライアが『これは知識がないと無理なのでは?』とか言っていたなぁ。
………だから少しは絵とか入れてそれっぽく書いたつもりなんだけど………。
「(ケイ、私にはその『魔法書』に何が書かれているかわからないよ………助けたいけど)」
「(助けたいんだな?)」
「(もちろん)」
よし。俺は持ってきていた箱をしまう。
大事な薬――いや、大事な『材料』だからな。
そしてタイミング良く、ヨミが出てきた。
「すいません。ご迷惑をお掛けして」
「いやいや、大丈夫大丈夫………それよりだ少年」
「は、はい」
「――母親を助けたいか?」
「え? ………は、はい!」
俺は『眼』を使って、その言葉の真偽を確かめる。
結果は――白。本当だ。
「なら、少しハギを信じてやってくれ」
「………はい」
弱々しいが、まあ良いだろう。
「少し外出るぞ。すぐに戻る。ハギはここで待ってろ」
■■■■
「………さて、これだけあれば『霊薬』の一つや二つ、初心者でも素人でも出来るだろ」
俺は露店で薬草類を買い漁り、それら全てを良好な状態にして戻ってきた。
「………嫌な予感が………」
「大丈夫だ。失敗しても死にはしない。安心しろ」
「安心できる要素がないけど!?」
大丈夫大丈夫。爆発もしないから。
俺はちゃっちゃと買ってきた物を渡していく。
釜やらビンやら………うん。まあこれだけあれば大丈夫なはず。
「………さてハギ。質問だ。この道具を全て使う『スキル』は何だ? ヒントだが………人間の宮廷魔導師はこれが出来ないと入れない部署もある」
「………それ答え言っちゃってない? 『錬金術』でしょ?」
ハギがそう言うと、ずっとハギがポーチにいれていた『魔法書』からカチリと音がする。
………本当だったのかよ。俺はてっきり冗談かと。
「よし、じゃあ『錬金術』スキルも入手したから、薬作りを始めるぞ。
今回作るのは『霊薬』………まあこれは俺が適当に名付けただけの薬だが、回復力を高め、一時的に感覚が鈍くなる副作用のある薬だ。
これを作ってもらう」
俺は『霊薬』の説明をしていく。
ちなみに当然の事を言わせてもらうが………世の中に『万能薬』なんてモノはない。
もちろん副作用が強すぎる『万能薬』は出来る。だが、それはただの『毒』だ。
病気が治っても、不自由な体で過ごしたい奴はいないだろう?
「………いや、私無理」
「できるぞ。使う魔法は『成分抽出』『成分凝縮』とかの簡単な魔法だ。
心配なら『錬金術』スキルを強化するが………どうする?」
俺は『誓約魔法』の影をちらつかせる。
まあスキルってその分野の熟練度を表す尺度でしかないんだけどな。
「………強化はいらない」
「よし、じゃあ始めよう…………あ、失敗しても爆発はしないが、『毒』は出来上がるのでそのつもりで」
「最後に大きな爆弾落とすのやめて!?」
………どうも、四月までには三章終わらそうと考えていたのに無理そうな人です。
三章ストーリー終了後に閑話を一話入れる予定です。