第120話 人間も獣人も『人』であることにかわりはない
さて、状況を整理しようか。
俺達はのんびりとディグニティー観光をしていたのだが、ハギのテンションが上がり一人でどこかへ行ってしまった為別行動を取ることになり、俺はギルドを経由したヤブ医者集団からの依頼を受け、ハギは迷子の獣人幼女と共に行動。
そして路地裏のとある家の曲がり角でばったり再開を果たすという濃度の濃い半日を過ごしたな。
…………まあここからが面倒事の真の問題なのだがな。
俺とハギ。そして獣人幼女ことカレンは、大家に怒られている少年達をこっそり見ながら痴話喧嘩をしていたのだが、それが大家にバレる。
そして獣人幼女カレンが少年や大家さんと関わりのある存在だとわかった俺達なのであった。
――よし、現実逃避終了! 今から逃走経路を考えなければ。
とはいえ大家さんの狙いはカレン、そしてもしかしたら俺達もかなぁ………まだ闇市とかあんのかね。
まあカレンが売られる可能性は高いが、それ以外にも変態貴族の従者になる可能性――ああ、これもほぼ同じだな。
それじゃあまあ俺はセーフとして………ハギか。
一応顔面の素材はいいし、魔法の実力も高水準だから結構扱いの幅は広いんだよな。
それに結構背が低いから変態貴族に売られる――って、お前もかよ。
まあハギがいなくなったら俺がライアに殺されるから、少しは『交渉』してみるか。
「こんなところにいたのねぇ、探したわよぉ」
「止めろ! カレンには手を出すな!」
うわ、何だこの気持ち悪い話し方は。
そして少年の言葉でカレンが少年の家族であることが確定したな。
カレンはハギの後ろに隠れているし………ああはい。俺は保護者役か。
「アンタがこの子の保護者かい?」
大家さんは下心丸出しの顔と声で俺に聞いてくる。
………なんだかコイツと話すために俺のスキルを使うのは嫌だな。
俺は頷く。
スキルが無ければ会話も出来ない人間――じゃない。精霊が何故保護者をやらんといけんのだ。
「そうかいそうかい………お兄さん。そのお嬢ちゃんを『モーティブ家』の使用人にする気はないかい?」
大家さんが笑う。
そしてその後ろでは少年が「駄目だ……その人の言葉を信じちゃいけない……」と、小声で何度も繰り返している。
うん。俺も名前も名乗れない奴に心を開くことはないな。
まあ名乗ったからと言って開くわけではないが。
「――ん~、まあ、却下」
「そうかいそうかい。じゃあ今から――何だって?」
大家さん。断られないと思い込み話を進めようとする。
自信家だねぇ………俺なんてスキルでそういうのが相殺されて素の性格が出てんだよな。
まあそういう意味では、この大家さんもハギもカレンも、恵まれているよなぁ………はぁ。
「だから『断る』って言ったんだよ。もしかしてもう耳が遠くなったのか? 獣人なのに………いい耳鼻科でも紹介してやろうか?」
なお、俺が紹介するのは先ほど荷物を預かった薬局のヤブの方々です。
大家さんは俺の言葉に、顔を赤くする。
いや、沸点低くね? もしかして『短気』スキルでも持ってるの? こちらとら『憤怒耐性』というスキルがあるせいで本気で怒ることが出来ねぇんだぞ! いや、怒る気も無いけどさ。
「………たかが人間ごときの分際で調子に乗ってんじゃねぇぞ?」
「うわあ、こわぁい♪」
俺は睨みつけてくる大家さんに笑顔で『挑発』する。
うん。やっぱ差別ってあるんだな。
まあそういうのは気にしたら負けだな………じゃあ俺もう負けてるわ………。
「八つ裂きにしてくれる!」
そう言って大家さんが飛び掛かってくる。
おー、まあ速い方かなー?
俺は左に避け、ついでに足をかける。
「んな!?」
引っ掛かるなや。
そして直進するなよ。
俺は転けた大家さんを見る。
………やっぱ外見的特徴じゃあ種族の見極めまでは出来ないな。
「うわぁ………猪さんだぁ………」
「ハギ、たぶん違うだろうからそんな事言うな」
いやまあ……そう思えるのも無理ないわ。
大家さんが起き上がる。
「ハギ、カレン。そしてそこの少年。通りに出てろ」
「はーい」
「え? ちょ!?」
少年の訴えは途中で驚きに変わった。
まあそうだよな。自分より小さい奴に持ち上げられりゃあそうもなる。
「よくもやってくれたな………」
「いやぁ、お褒めに預かり恐悦至極」
おー、まあそうかっかするなや。
俺は再び、受けたら重たそうな一撃を避ける。
………速いけど、まだまだ自身の身体能力を扱いきれていないねぇ。
そんな大家さんからの一撃一撃が重たい? 連撃を避けたりしていたら、たった数分で大家さんが息切れをし始めた。早いなぁ。
とはいえ一旦引いた大家さん。
その体からは『闘気』っぽい何かがあふれだしてる。
………え、大家さん『先祖返り』なの? 何族よ?
まあ『闘気』が弱いから『先祖返り』はありえないとして、だ。
俺はスピードもパワーも上がった大家さんの攻撃を避ける。
そういえば『先祖返り』でなくても『闘気』を使える戦闘民族がいたよな………いや、別に七つの玉集めたら願いが叶うあの物語は関係ないけど。
「………回避してばっかじゃないか………!」
いやいや、攻撃していいの? 今の俺、たぶん普通の人間を消し飛ばせるよ? ステータスALL『不明』を舐めるなよ? まあ最近見てないからどうだかは知らんし、見るのがちょっと怖い、が。
………俺、本当に拳一つで消せるのよ。
実際に転生してから一発モンスター殴ったけど、跡形も残らず消し飛んだぜ? まあ本気でやったからかもしれんがある意味ホラー映像な訳で。
まあ良いと言うのなら………俺はやるからな? 俺は空間を殴る。
大家さんは警戒はしたが、その………すぐに吹き飛ばされた。
………うん。壁を破壊せずに済んだのは幸いだが………おぉ、顔面が変型しておる。やっぱ手加減は難しいのぉ………軟弱者め。
大家さんの顔面は見るも無惨な………鼻は曲がり顎は外れ歯は欠けて少々骨格がおかしなことに………こりゃあ『回復』させるにしても痛そうだなぁ。
自分で行ったことながら呆れる俺は、大家さんに『回復魔法』をかける。
ちなみに俺の『回復魔法』は『再生』に近いので、治す時に痛みを伴います。対象者が。
まあ痛みを感じたく無ければ『麻痺』の魔法でも使えばいいしな………俺の回復魔法は効率重視であり、患者への配慮は一切なっておりません。
治している最中、俺は落ちていた紙を拾う。
戦闘中に落ちた紙なのだが…………あー、これ大家さんの……うん。まあ………クズだなぁ…………。
「くっ…………があっ」
おー、もう意識を取り戻したか。早い早い。
まあ起きたら起きたで地獄のような痛みが待っているが………自業自得ってことで。
俺は大家さんに近づいていく。
………こういう悪事を働く奴は、後で何するかわからんからなぁ………ついでにカレン達の親御さんの病気も治すか。
「さて大家さんや………」
「ひっ、す、すまない! 悪気はないんだ! もう止める! 止めるから許せ!」
大家さんの必死の懇願。
だがなぁ………反省の色が無いぞ?
それに家賃だってこりゃあ………酷いなぁ………銀貨一枚だとよ。一般的な家賃が確か銅貨五枚から七枚くらいだから、ここの家賃ってお高いよな。ボロいのに。
まあそんな悪徳業者さんなんだ………金はあるよなぁ………ヤブ医者の薬コイツに売るか?
とはいえなんかヤブ医者と手組んでそうだしなぁ…………。
「………んーまあ、俺に関わらなければいいよ」
俺は大家を許す。
どうせ他人事だし、俺が首を突っ込むことじゃないからな。
そういうのは『勇者』の仕事だ。『精霊神』の俺は管轄外ってことで。
………まあ昔は『勇者』やって世界を混乱させたけど。
そこから『勇者』にはならなくなったな。うん。ちなみにあれは60回目くらいの転生でやった。
大家さんは逃げていく。
おー、やっぱ逃げ足は速いなぁ………そういう所、やっぱ人間と同じだよなぁ………。
俺は大家が逃げていく姿を見ながら思う。
どーせ面倒ごとだ。ハギにならわかるモノを着けて、全ての判断をハギに委ねよう。
俺は関わってしまったから、彼らの親御さんくらいは治そう。
「いやぁ、酷い攻撃だねぇ………」
「お前もやられたいか? ハギよ」
俺は戻ってきたハギと共に、彼らの家にお邪魔することになった。
………やっぱハギ。お前はコミュ力が高かったのか………!
………更新したのはいいのですが、もしかしたら、後の改稿作業で大幅な修正をするかもしれません。
もしかしたら三章消滅の可能性もあります。
まあ面倒なので行う予定は今現在はありませんが。