第114話 観光したいなぁ…………普通な観光が…………はぁ
泊まった宿は案外良い場所だった。
そのボロそうな外見に反して料理はいいし布団もよい。
俺はあまりベッドとか好まない人間………訂正。精霊だから、結構好みな宿だ。
まあハギは不満があったらしいが。
料金ももう少し上げていいと思うが、それを宿屋の主人に言ってみたところ――
「そりゃできねえよ兄ちゃん。こんなボロっちい宿に泊まってくれる奴に失礼だぜ」
と申した。確かに外見ボロいけど、結構しっかりした建物だぜ? ってか、外見をボロくしてるよな?
そんな感想は胸の内に留めて、俺は提示された料金より数倍多く金を払った。
ついでに少し傷んでいた場所をこっそり治しておいた。
満足したので、俺とハギはこの宿――『古色蒼然』を出ていった。
時刻は午前八時。結構寒い。
しかし獣人達の朝は早いので、この『獣人国』においては普通の時間だろう。
「………寒いねぇ………」
「言うなハギ。もっと寒くなる気がするから………それにもう少し待てば暖かくなる」
この『獣人国』の季節は冬。
朝が寒いのはどの国でも同じだが、獣人の国の首都である『ディグニティー』は大陸の中でも北の方面にある。
そして『修好の橋』はその『ディグニティー』に向かって伸びているから、獣人国に向かって橋を渡っていると、だんだん寒くなっていく。
ちなみに獣人――獣人も獣人も暑さは苦手だが、寒さは得意らしい。
まあそうだよな。獣人は少ないかもだけど、獣人は毛深いし、暑がりで寒さに強いににはなんか納得したわ。
ちなみに一部の獣人は寒さに弱いらしい。
俺とハギはそんな朝の『獣人国』の朝の街を歩く。
ハギは寒さで肩が震えていたが、俺は『耐性』スキルのお陰で寒さも暑さも感じない。
やっぱ何事も程々が一番だなぁと、最近思ったわ。だからこその『制約魔法』なんだけどさ。
「うー、寒い」
「目的の店まで後少しだ。耐えろ」
ちなみに目的の店は昨日冷やかし――じゃなくて宿探し中に出会った雑貨屋のことだ。
ここら辺の建築は昔とそれほど変わりなく、今も俺達の伝えた建築技術が使われている。
そして屋根も瓦屋根という………うん。建築技術に進展はないけど文化は進化したんだな。
ハギは目的地である雑貨屋――『お土産処 繚乱』に駆け込むように入っていく。
「あー、暖かいよ………」
「そうだなー」
部屋の中は魔道具で暖かくなっていた。
この魔道具は魔族の作ったものだ。獣人は人族や魔族との交流が多いからな。
人族と魔族がもう少し交流してくれたらなぁ…………まあ無理かな。
「いらっしゃい。こんな早くに珍しいねぇ」
店の奥から店主らしき獣人が現れた。
多分狼の先祖返りで、種族までは特定できない。
この世界は結構様々な動物いるからなー。まあ『精霊眼』使ったらわかるけど、さすがにプライバシーの侵害は元日本人としては出来ない所業だからな。
俺とハギは店主に一礼し、陳列棚に視線を落とす。
陳列棚には商品が綺麗に並んでおり、棚本体も店主が毎日綺麗に掃除していて、店を大切にしていることが分かる。
うん。ここで正解だったな。
俺とハギはライアの土産を選ぶ。
一応土産は鞠でいいかと思っているが、鞠にも様々な模様や色があるからな。俺もハギもライアに似合いそうな色合いと模様を探している。
「――ケイ、こんなのどう?」
ハギが一つの鞠を陳列棚から取る。
紫色の七宝文様の鞠だ。確かにライアはそういう雰囲気があるかもなぁ。
「いいと思うぞ。じゃあ買うか」
ついでに個人的に数種類鞠を買って雑貨屋を出た。
うん。なんか普通に観光してる。
「なんか普通の観光客みたいだねー」
「おい。観光だぞ。今旅行中だし」
「でも普通な観光はあまり出来てなかったよねー」
言い返す言葉も無く、ただ確かにと頷く。
でもまあ『獣人国』では平和に終わるでs――
後方から轟音がした。
「…………」
「…………」
俺もハギも、顔を見合せ、同時に音の方向を向く。
しかし、煙も何もなく、ただ単に音がしただけ――
「退け退けー! アザイン様のお通りだぜ!」
さて、逃げようか。
声に出さずとも、俺達師弟の思考は一致し、近くの路地裏に急いで飛び込んだ。