第113話 宿探し……もう愚痴を言わなきゃ探せねぇ……
この国は本当に芸術で溢れていた。
確かに『魔族領首都オデット』も芸術はあった。
だがしかし、ここはあんな街を超えていた。
「………マジかよ………」
「ケイの家とおんなじ形だねー」
この獣人の国はまだまだ伝統文化が廃れてなどいなかった。
むしろ進化していた。
ちなみに俺が獣人に教えたのは『木造建築』の方法と『日本文化』を少々………言い方が料理番組臭いが、本当にそれくらいだ。
俺の教えた日本文化で、今流行っているのは…………ああ、蹴鞠か。
「ねえ、あのボールみたいなの何?」
「あれは蹴鞠っている貴族様の遊びだよ」
「確実に平民がやってるけど………」
うるせえ俺の世界じゃあ貴族の遊びだったんだよ。
しかし蹴鞠の上手いこって………おお、柄も綺麗だなぁおい。流石は芸術の国。
絶妙な色合いが気に入った。よし、土産決定。
「それじゃあ………まずは宿探しだ」
「これ恒例行事じゃん」
本当にな。
しかしやらねば野宿になる。
結果、俺達は昼過ぎに宿を見つけることができた。
「やっぱこっちの方が観光客多いね」
俺達が店を冷やかしながら歩いていると、唐突にハギがそう呟いた。
「そりゃそうだろ。こっちの方が見所あるし………」
例えば特殊な建築技術とか加工技術とか………ほぼ俺達転移者が獣人に遺した遺産だもんなぁ……。
「そういえばケイもここで余生を過ごした事ってあるの?」
「あるぞ。この国は昔から平和だしなぁ………戦争の被害もあまりないからな」
ちなみに戦争は人族対魔族の戦争しかない。
獣人は基本的に傍観者を気取っていたが、中には戦闘狂――好戦的な獣人も多いので、傭兵として雇われて戦争していた馬鹿者もいる。
まあ俺が入知恵してからは人族にも魔族にも物質の供給をして金を荒稼ぎしたが――まあこの話はいいな。
「ちなみに結構獣人国は隠居者も多いぞ。運がいいと行方不明になっている筈の偉人に会えることもあるし」
「まあここにもある種の偉人がいるもんねぇ………」
ハギがジト目で俺を見てきたので、俺は顔を背ける。
ははっ、俺の名前は偉人さんの中には入ってねぇぜ? 世界で有名な悪人の中には入っていてもな。
「俺はどちらかと言うとお前の方が偉人だと思うぞ。前世が」
「ケイが助けてくれなかったら前世の私は実験動物だったからねぇ………」
ナチュラルに暗い過去を話題にしたなハギよ。
っつうかそこまで覚えているのかよ。
「そもそもあれは魔王様の命で行っただけだぞ? まあ金は自腹だったけど」
「お父様も容赦ない」
「職場はホワイトなんだけどな」
俺もあの頃を思いだしながらハギと話す。
本当にいい職場なんだぜ? 給料はいいし時間外労働はないし時給はいいし………なんか本当にホワイトな職場だった。
「………いや、そこなんだ」
「いい思い出だな。職場のことは……宿探すぞ」
うっかり話し込み忘れていたが、俺達は宿を探しているのだ。
できれば繁華街周辺がいいんだけど…………。
「宿探すぞって言っても……ねえ?」
ハギがうんざりしたように言う。
確かにここら辺は宿も多い。
だから安い宿は埋まってるんだよな。
まあお高い宿でも泊まれるけど。
「ねえ? と言われてもなぁ……いっそ最高級の宿にでも泊まるか?」
「そこはそこで空き部屋がないんじゃ?」
「だろうなぁ…………」
探しても探しても見つからない宿に、俺もハギもうんざり。愚痴の三つ四つは出てくるわけで。
夕方になってやっと一件見つかったのは奇跡だろう。
発想が湧かないし執筆時間がないです………。
今回ももう少し進むはずだったのに宿への愚痴回に…………。
次回からはもっと遅れると思いますです………もしかしたら、週一更新ができなくなるかもです。忙しい。