第108話 あのだから! そういうイベントは勇者に回してくれませんかねぇ!?
朝――というか昼? まあ太陽さんが出てきて現在時間は午前十時。
俺とハギはまたもや冒険者ギルドにいた。
「――『犯罪者』………ねぇ」
俺はギルドの一角にある『犯罪者リスト』を見ている。
現在懸賞金がかかっている犯罪者は三名。
大金は四名なんだけど、なんか一人殺している気がする。
特に『パセティク・プレジュディス 重力魔法使い』とか書いてあるお方を俺は流星に変えてしまった気がしてならんのだが…………まあいい。
俺の調べているのはそこじゃない。
今回は『魔獣使い』またはそれに連なる魔法を使える犯罪者がいるかどうかを調べる為にいる。
実は、まだ俺の中で一昨日の大型モンスターの襲撃がおかしい。そう、引っかかっているのだ。
そもそも彼らは魔力を発する存在を察知できる。できるのだが、彼らは基本的にここら辺には生息しない種だ。
一昨日のモンスターは全てが大型――ここら辺のモンスターは基本的に小型と中型。そして稀に大型がいるくらいなのだ。一昨日の大型の群れのおかしさが十分にわかる。
それにハギもアグリピナもそこまで奥には行っていないと証言している。
これは多種多様な魔導具を使って本当だと証明されているので、やはり何かしらの事件があった。または何者かにモンスター達が操られていたとしか言い様がない。
だからこそ、俺は今冒険者ギルドで犯罪者の名前と得意魔法を見ているのだ。
だが、まあやっぱ『召喚魔法』とか『主従魔法』とか、やっぱそういう魔法使い多いですわ。どんだけ犯罪に使われてんだよ。
まあそれも魔族という種族が魔法の扱いに長けているから、そして魔力の扱いに長けているから魔族と呼ばれているからなのかもしれんが、まあそれはそれとして。
俺は数人の犯罪者の顔の特徴と得意魔法を覚え、ハギと共にギルドを出た。
■■■■
今日も賑わいを見せるオデット首都。
しかし、今日の賑わいは昨日までとは少し違う。
なんたって明日は新国王の戴冠式であり、新たなる『魔王』が誕生する日なのだ。
国民も今から祝福ムードなのだが、まあ値切りは出来ないという………まあいいけど。買いますけどね。
俺とハギは前のように別行動をとる――ことはしない。
どうせ明日の朝には街を出る予定なので、二人でライアへのお土産選びをしているのだ。
それに『戴冠式』は俺が見たくないし、ハギも知っているのでいいかな――と、思いましてね。参加する気はないなぁ………。
「ねぇケイ。これなんてどう?」
ハギは物産展で売っている菓子の詰め合わせを俺に見せてくる――って、それはお前の食いたいだけだろ。
「いいんじゃね? 形に残る物って結構邪魔だし」
「………なんか思ってた反応とちがーう」
なんだ? 俺にリアクションを求めているのか弟子よ。
無理だな。うん。
俺はその菓子の詰め合わせを数袋買い、『異空間収納』に入れる。
「よし。土産は買ったな」
「買ったねぇ…………」
目的を果たし、もはややる事もなくなった。
じゃあ宿屋、探しましょかー。
「見つからん……」
「もう、夕方…………」
やはり、有名な宿はすぐに埋まるな。
だが、それ以外の宿も埋まる。
やはりもう、あの『一回泊まった宿には泊まらない』というルールを廃止するべきか………。
真剣に悩みながら、次の宿に向かう。
「あの………ここ、空いてます?」
「はい…………後五部屋は空いてますね………はぁ…………」
店員さーん。もうちっと元気にいきましょうよ。
まあ接客は関係ない。空き部屋の有無が今の問題だし。
俺達は無事、まだ泊まっていない宿で二部屋とることが出来た。
果たしてハギはあの魔法書を解くことができるのか? 期待したい。
そんな淡い期待を寄せて、今日も部屋で謎解き。
もう魔法書解読じゃなくて謎解きだ謎解き。
そもそもなんでそこまで解っているのに解けねぇんだよ。
「……やっぱ無理」
「無理じゃない。諦めたらそこで試合終了だぞ?」
俺は某漫画の有名なセリフを思いだしながら言う。
久しぶりに地球での事思い出したわ。結構懐かしいな。
だけど半分以上が不幸な出来事なんだよなぁ………。
そんな事を考えていると、突然少し離れた場所から魔力の反応が生まれる。
「試合終了って……おっと――え? 爆発?」
大きな爆発だった。
多分あの爆発の大きさからして、不得意な魔法だったのかまたは『爆発魔法』の一つである『小範囲爆発』のどちらかと言えるが、今回は『爆発魔法』が不得意な魔法だったのだろう。
まず威力が小さいわ。俺の貼った結界にヒビの一つも入らなかったし。まあ木造のこの宿にぶつけてきたのは頂けない。
しかし少し振動が来たのも事実なんだよなぁ。
ハギが本を落としそうになったのはきっと急に湧いた大きな魔力が原因であろう。そうであると願いたい。
「………外、出るか」
「そうだね。二回もこんなことって…………本当についてない」
「本当にな」
俺はハギと共に『転移』で魔力の発生源に移動する。
しかし森の奥で放ったようで、簡単に『転移』は出来ず。仕方ないので上空に『転移』した。
奇襲? ちょっと俺には通じないかな。
魔力の発生源は森の奥深くで、少し見えづらいが、何故かそこには初老の魔族がいた。
どこかで見た顔だが、まあいいや。
俺はハギを置いて一気に飛び降り、お久しぶりな殺戮剣で、その魔族の首筋に当てる。
「何者だ」
「………貴様から名乗るのが筋ではないか?」
うん。聞いたの俺だからそうだな。
俺は納得しながら名乗る。
「俺は拓哉――こいつはハギな」
「うっわ、一人だけ偽名とかずる」
うるせぇ。バレなきゃいいんだよ。
だが魔族は何故か笑ってる。
余裕ですか。まあいいけど。
「我の名前はプーア。それで? 何故ここが解った。ケイ・クロヤ」
うわー、マジですか。
まああっちが本名を名乗ったのは良しとして、なんで俺の名前知ってんですかねぇ? まさか『識別魔法』でも使ってるの? プライバシーって言葉知ってる? あ、ブーメランだったわ。
「んー。まあ魔力で」
俺は事実を言う。隠すことでもないしな。
ですが実際、魔力を感知するのは簡単なんですけど、どの位置から魔力が放たれたか、どの程度距離があるのかを調べるのは難しい。
まあそんなの『魔力察知』と『魔力探知』のスキルがあればどうにでもなるけどさ。
そんな事を知らないプーアさんはめちゃくちゃ驚いている。
いや、まあまだハギも出来ないから――って、驚いてない。まあいいけど。
「………想定していた以上に最悪だ」
「最悪? そうか。ならこの森を埋め尽くす魔物はなんだ? まさかこれが『保険』なのか? これだけが」
挑発兼少量の本音なんだけど、ほぼ挑発だな。うん。
ってか、なんで俺を狙う。勇者狙えよ。こういうのはアイツの管轄でしょうが。仕事しろ。
「まさかこの数の魔物を『だけ』と申すか……いい度胸、貴様の実力。見せてもらおうか」
そう言って消えようとするプーア。
しかし、俺は『空間固定』の魔法でプーアのいる空間を固定する。
驚いているプーアは無視。そもそも『空間魔法』なんてよく使ってたな。一緒に『時間魔法』を使わないのは適性がないのかな? まあいいけどさ。
「………人質か」
「いいや? 逃げられるのは面倒だからねぇ――ハギ」
「うん」
俺はハギに一声かけて、自ら腕を切断する。
当然ながら、血が流れる。
「貴様。一体何を」
「はーい。黙って観てなー」
俺はプーアを空間ごと移動させる。
そしていいかんじな高度で固定。
なんか驚愕していたし、なんか文句も言っていたが無視。
「始めるぞ」
「はーい………面倒」
「うるさい。もう逃げられんぞ」
俺は剣をしまい、ハギは俺の血で出来た槍を宙に浮かせる。
腕はもうくっついてる。
「防御は俺がやる。攻撃に専念しな」
「わかった」
その声と同時に、魔物が襲いかかってくる。
やっぱ森には猪と熊が多いな。そして見えづらい。
「『反射結界・転』」
俺は結界を外から触れたモノを強制的に転移させる結界を貼る。
ちなみにまだプーアを空間に固定しているから、これって多重行使になるな。
ハギは結界内から『血魔法』で血で槍頭――矛先だけを作って飛ばしている。
俺も同じく『血魔法』で血を操作。
しかし俺の場合は生きている魔物から血を抜いている。
この魔法は『生魂魔法』と『血魔法』の複合魔法。
まあ『生魂魔法』は結構魔力を食らうのでそこまで燃費のいい魔法ではないが、やはり生きている者の血の方が『血魔法』の効果を高めるからな。
俺は血を短針くらい小さく分ける。
そして大半を『隠蔽』スキルで透明化させて『隠密』スキルも使って意識しても見えない判別できないくらいに隠す。
そして一匹に一つずつ、急所をつきながら殺す。
面倒。
ハギは俺の殺した魔物から血を取り出して『闇魔法』の『毒付与』とか言う魔法を使って一撃で殺し始めたが、少し効率悪くね?
「ハギ。余裕あるなら殺した瞬間に槍に血を補充していけば?」
「………むり!」
あ、余裕なさそ。
まあ俺が適当に考えただけなので、少し行ってみる。
まずは俺の扱っている血にかかったスキルを全て解除し、血を全て凝縮させる。
全ての血を凝縮させ、ハギの作ったくらいの矛先を作る。
それを放つ。
槍は適当に投げても当たる。
群れてんだもん。投げりゃ当たるわ。
一匹に突き刺さり、刺さった分の血が消費される。
その消費された分の血を刺した魔物から奪う。
結果は成功。
よし。次からはこれを実戦で扱えるように鍛えよう。
「………なんか悪寒が」
「大丈夫だ。魔力操作に馴れれば誰でも出来る」
ハギの言葉を無視して、俺は強制的に決まった事を知らせる。
「それにしても多いなぁ………」
「疲れた…………そして眠い怠い………」
確かに。
「……終わらせるか」
「早くそうしてくれないかな?」
うん。もう攻撃を止めるか馬鹿者。
俺は魔力を高める。
「(生魂選定――完了)」
俺を中心に魔力が渦を巻く。眩しいんですけど止めていただけないですよね。畜生。
まあ止めないし、止めたら魔法も止まってしまう。仕方ない。
俺は魔法を唱えた。
「『選魂』――飛べ!」
俺が唱えた瞬間、周囲の魔物が重力を無視して空に落ちていく。
――生魂魔法・重力魔法複合魔法『選魂重力操作』
『生魂魔法』の『選定』で選ばれた魂を持つ者の重力を操作する複合魔法。
魔力の消費が馬鹿馬鹿しいほどだが、それに見合う効果を持つ。広範囲殲滅魔法。
俺に選ばれたモンスターは全員流れ星となり燃え尽きただろう。
……隣から「うわぁ……えげつない」とか聞こえたのは空耳だな。うん。やり過ぎた。