第101話 (人混みに)怯えてビクビクしていると勘違い系のデカイ人に絡まれる。
早朝。
もう朝日は昇っており、窓際のベッドでは眩しい。
思わず目を覚ましてしまった。
ハギは――まあ寝てるか。
俺は適当な衣服に着替え、ハギを起こしに行くことになった。
■■■■
今日はハギが行きたがっていた『冒険者ギルド』に行く。
どうやら知り合いがいるらしい。
「さて………準備はいいか?」
「………うん」
ギルド前で、決意を固める迷惑師弟。
まあ大きな冒険者ギルドなので、やっぱ人も多い。
俺達には鬼門。
何か用事でも無ければ行きたくない。
そんな場所に生半可な気持ちで飛び込めないから。
いや、崖からだったら飛べるけど。自由落下で。
まあいやいやしていても迷惑なので――ってかもう視線が痛いから、さっさと扉をあける。
「お、新人か?」
何度も言うが、勇者のような『お約束』はいらねぇよ。ってかお約束あり過ぎね? 盗賊に襲われたり、ハギは運命の出会いを (ここの冒険者と)してるし。
こりゃあれか? 俺には合わないのか? まあずっと引きこもりな人間――人型生物が外に出ることがおかしい事で、外の世界に馴染めないのは普通だと言われればそれで終わりですけど? 否定できないし。
そんな根暗思考は棚の上に置いといて、今から絡んでくる冒険者の対処法を考えようか。
その1.ハギを見捨てる。
しかし、それを行うとぎゃあぎゃあ煩いし、現時点でそれを察したハギが睨んでいるので無理。
その2.無視。
無理。
その3…………武力解決?
しかしそれは目立つのでやだ。
その4.話し合い?
無理じゃね?
その5.殺る
それこそ犯罪だわ。ってかロクな答えがねぇよ。
もうあれだな。良い様にこきつかわれる方が楽じゃね? 勿論依頼として金はぶんどる方向で。
でも金も………よし、方針を少し変えよう。
「ハギ、今から金を稼いでその日を暮らそうって考えたんだが」
「ケイ。私もその案思いついてた」
小声な会話で決心して、怯えた演技を開始する。
尚、俺は『演劇』『道化』『役者』等のスキル補正があるが、ハギには無い&ハギは大根役者らしい。
まあハギの場合『奴隷になる寸前』のトラウマ記憶でも掘り返せばすぐに出来ますが。
「なあ兄ちゃん達。俺達がいい仕事を紹介してやるよ」
ごついお兄さん(笑)はそれはもう気持ち悪い下心丸出しの笑顔で言ってくる。
「本当ですか? お願いします」
こう言う時、俺は『役者』スキルに感謝するわ。
もしもスキルなかったら、すっげー挙動不審な話し方になるし。
まあスキルのお陰で『純粋な少年』を演じれる訳なので今本当スキルに感謝の気持ちしかない。
「そうか。じゃあ今から行くから――これ持て」
ごついお兄さん(笑)は虚空から荷物を取り出す。
なんでお前が『アイテムボックス』スキルの持ち主なのかなぁ? おかしくね? いいけど。
俺はポケットから風呂敷を出したように見せかけ『異空間収納』から取りだし『梱包』『整理整頓』等のスキルを使い、無駄に綺麗にまとめあげる。
ちなみにこの後、お兄さん(笑)達とは金銭の交渉を行う。
「では? 報酬のほうはどれくらいですか?」
さすがにこの問は予想外だったのか、顔を強張らせるお兄さん(笑)。
これ、あれじゃね? 新人冒険者捕まえて超低賃金で強制的に雇うやつ。
それをSランク冒険者とEランク――まあEランクは仕方ないとしてだ。さすがに最高ランク冒険者を人形のようにこき使うのは………ねぇ?
なんか罪悪感も湧いてこないから、交渉を開始。
こんな時に『行商人』スキルが一つの『平和的交渉術』と『交渉関係形成術』がまあ使える。
なお、俺の使い方は本来の使い方とはかけ離れている模様。
「報酬良いってことは………まあ一日で稼げる最適賃金の数倍――銀貨一枚位にはなりますかね?」
「………お、おう、や、やっぱ――」
お兄さん(笑)が商談――じゃない。交渉を中断させようとする。
………それを俺が許すとでも?
「おや? まさかまさか? Aランク冒険者ともあろうお方が? 初心者から金を巻き上げて最低賃金で雇おうとお考えだったので? そんな訳ないですよねぇ?」
「あ、ああ、も、勿論、報酬はどっさりと………ある」
「では、依頼受けさせていただきますね」
きっぱりと、このお兄さん(笑)の「報酬はどっさりと………ある」は録音済み。
この後何て言われようが――おや? なんか悪役的な考え方になっている気がするなぁ? 不思議。
俺は風呂敷に包んだ荷物を持つ。
まあ俺は最早全ステータス『不明』………たぶんな。もしかしたら、最近見てないから知らんが、全ステータスが『不明』な精霊の神様(笑)だぞ。そもそも精霊神って何すりゃいいんだ?
俺は笑顔で「行きましょう?」と暗に促す。
しかし、お兄さん(笑)は冒険者ギルドを出てすぐに逃走。
仕方ないので、ギルドに彼の荷物を預け、風呂敷を回収して、ハギのもとへ。
ハギはお兄さん(笑)逃走直後から、ギルドで冒険者を探していたらしく、今は感動の再会を行っている。
俺は再会のシーンが終わるのを待つ。
「あ、ケイ。紹介するよ。こちらアグリピナさんっていうのそれでアグリピナさん。こちらはケイ。私の師匠です」
………なんか些か扱いに差がある。いや、別にいいけどさ。俺達の師弟関係って結構緩いんだよな。基本的に私語で話してるし。
「どうも、ケイと申します」
「どうも。私はアグリピナという」
ちなみに『話術』スキルを常時発動状態。
スキル効果は『上手く喋れるようになる』だったり。
俺とアグリピナさんは向かい合って一礼。
どうやら、礼儀はあるようだ。
「それでケイ殿――ハギとはどのような関係で?」
「関係もなにも――師弟関係だが?」
「そうか? 私は貴様がハギより弱く見えるが………」
あー、そう来たか。
面倒だなぁ。
「――そうですか。なら、良かったです」
実際、ステータスはオールAで固めてある。
魔力量からしてハギには劣っているんだけど――やっぱ駄目か?
俺は『制限』を数段解除して、ステータスをSSまで上げる。
これを別の人がみたら、それこそ急に魔力が増えたように錯覚するだろう。
アグリピナが驚いている。
期待通りなのだが、そこまできて疑問が生じた。
「そもそもだが………なんでアンタCランクなんだ? 実力はもうAランク中位くらいだろ?」
ぎくり。という効果音が聞こえた気がする。
アグリピナは顔を青くしている。
「さ、さてなんの事だか………」
はぐらかすようだ。
俺はステータスを覗くことにした。
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名前:アグリピナ・クラウディウス
種族:魔族
Lv15
年齢:24歳
ステータス
生命力:B
魔力 :S
力 :C
知力 :A
敏捷力:B
スキル
『剣術Lv5』『察知Lv3』『生活魔法LvMAX』『火魔法Lv6』『土魔法Lv5』『光魔法LvMAX』『闇魔法LvMAX』『魔力視Lv―』
称号
『陰陽を司る者』『視る者』
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………ほうほう。これが先ほどの。
俺は納得する。
確かに。このステータスならランクCだ。
まず『剣術』スキルは『剣技』やら『剣舞』やらのスキルに進化させられていない。
次に『察知』スキルを有効に使えていない。
そして未だに『光魔法』と『闇魔法』が結合されたスキル『陰陽魔法』になっていない――多分、実力の問題だ。
「――アグリピナさんアンタ………討伐依頼を最低限しか受けていないな?」
「………何故だ? 何故わかった」
「そりゃあお前、そんなに魔力あんのに洗練されてねぇんだもん。あと――」
俺は周囲を指差す。
アグリピナはわからない様子。
「酒場の人間の酒の肴――まあ噂話や悪口」
俺は人の話は重要な情報しかないと思ってる。
どこで役立つかわからない話も、結構役立つ時がある。
「まあ今日はハギと一緒に討伐依頼でもこなしてこい」
俺はクエストボードから『薬草採集』のクエストを拾い、ギルドカードを見せて受注完了を確認。
『ハギ。サポートはしてやる』
『うん。わかった。どれがいいの?』
俺は『念話』を使いながら歩く。
はや歩きで街を出て、群生地までダッシュ。
『どれでもいいが、実力に見合ったモンスターの討伐がいいな』
俺は薬草を『採集』スキルを使いながら採る。
そして適当な袋に詰めていく。
『ねぇ、リザードマン討伐ってどう?』
リザードマンはモンスターだ。
似ている種族に蜥蜴族という種族がいる。
彼らは知力も高いので、リザードマンとは全く別種の生き物だ。
『大丈夫だ。ただリザードマンは群れで動くし連携がウザイから』
『は~い』
俺は薬草を取り尽くし、魔法を使う。
すると大地から光が発せられ、すぐに光は消えた。
「よし、次行くか」
俺は木々の合間を縫うように、スキル補正全開で走った。
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