神主
「やぁ、久しいのぅ。司くん?」
第一印象は恐ろしくまとまりのないキャラだ。
目の前にいるやつは容姿も声も口調もつかめない。宇宙人よりたちがわるいかもしれないなと愛想笑いがひきつる。
「わしはここの主、春峰ソラ。ここはどうだね?」
「それはどういう意味でしょうか。父にもユアという女にもほとんど説明されずにここまで来たものですから」
少し苛立ちを含めたのだが、飄々とした態度でかわされる。
「ふむ、まぁ、詳しいことはわしらにもよくわからないんだ。伝説は聞いたか?」
俺は横に振ろうとした首を止めた。記憶の彼方で何かが蠢く。
「もしや、どんな病気も治すという舞の話ですか?」
恐る恐る聞いてみると、神主は深く首肯した。顔から血の気が引く。何故、俺はそんなことを知っているのか。父もユアもそんなことは言っていなかった。なんだか、自分自身のことがよくわからなくなる。しかし、これ以上考えていても仕方がない。もしかしたら幼い頃聞いたことがあるのかもしれないと自己完結した。
「それは我が一族に伝わる話で、言うまでもなく事実。当時の神主はこの人目のつかない村に美しいものだけを収集した。それらを守るため将軍に望んだものが黒龍でありそなたたち連城家というわけだな」
俺はもう何も驚かなかった。外に目を向ければ奇怪な現実が覗いている。ユアが言う“人間が造り出した天国”の意味が、何となく理解できた。ここは、その神主とやらが造り出した、コレクションのようなものというわけか。
「ではこの世界のものは?」
「不思議な力で守られているようでな、外にこれが漏れることはまずない。この世界の人間は動く人形のようなものさ。生も死もない、美しさに溺れた世界」
神主は大袈裟に手を広げてフッと無気力に笑った。滑稽だろう?
そう言った様子は何処か人間らしさを滲ませる。
「さて、今回君には修行、そして伝説にも語られる舞の警備を勤めてもらうんだぞ☆修行の件は後ろにいる助くんに案内させよう。後は頼んだ」
俺は後ろを見て飛び上がらんばかりに驚いた。そこにはいつからいたのか、下にいた能面くんにそっくりの少年が控えていた。しかしその子は下にいた子とは明らかに違う。
「これから寝食を共にいたします、僕のことは助とお呼びください。わからないことがあれば出来るだけお答えしますよ」
容姿はそっくりでも感情の起伏が見え、敬語も使える。修行者の仲間達は外から来ているのだから、案外普通なのかもしれない。張り付けたような笑みでないことが俺の心に癒しをもたらす。ここに来てはじめてまともな人にあった気がした。
「ありがとう。俺は連城司。よろしく」
本当、今日ほど長い一日ってないよ。