父の命令
さっきも言ったが、この家は少し時代が遅れている。
「おはようございます。父上」
朝の挨拶、親の呼び方。そして日常風景でさえも。
山の麓一帯に広がる平屋の木造建築。専属庭師による日本庭園。無駄に広い土地を所有しながら、現代の神器を一切取り入れない堅物の父には誰も逆らえない。
「司、お前には今日から春峰神社へ行ってもらう」
はいはい、って
「え!?あ、あの父上?なにも聞いてませんけど、今日は学校......」
と、最もな正論を述べてみる。
が、この父に二言はない。正論を述べた俺が睨まれるという始末だ。
「学校側には伝えてある。もうすぐ夏休みなんだ、行かなくとも変わりあるまい。お前に勉学は向いてないようだしのう?」
そういう父の目は明らかに敵の弱点をとらえた獣のものである。案の定俺の口からはぐうの音もでない。兄は勉強が出来るのに対して、俺は専ら運動のほうが出来る。しかも運動というのは世間一般が考えるようなスポーツではなく、武道と言われる類いなのだから、兄より俺の方が家を継ぐには都合がいいのだろう。
「それで、俺は何をしたら良いのでしょうか。父上」
父は白旗を揚げた俺を満足げに見て頷く。俺は無言で飯を口に運ぶ作業を続けた。
「食事が終わったら富士の間に来なさい。大事な話がある」
立ち上がった父の顔を見ようとはしなかったが、その声は極道を取り仕切る頭のものだった。
俺は食事を終わらせ、言いつけ通り富士の間に向かった。富士の間へは三つの部屋を突っ切っていくしかない。しかし、今日はその仕切りとなるふすまが取り払われ、目付きの悪い奴らが中央を空けて座っていた。俺の登場を知らせていなかったのか動揺が走る。
一番奥でだらしなく肘掛けに寄りかかっているのが父だ。父は俺を見るなり姿勢を起こして手招きをする。
早くも俺はこの場から逃げたくなった。なんとなく父が言うことがわかった気がする。それでも目付きの悪い男達に睨まれているのだから逃げ場などない。
俺は堂々と中央の道を進んで父の前に立った。途中視線が痛かったが、そこは無視だ無視。
「よし、お前ら紹介しよう。次男の司だ。わかっていると思うが、黒龍の後釜だ」
多くの者の意識がこちらに集まる。
色々と聞きたいことがあるのだが、それは横にいるやつに遮られた。
「な!お頭!黒龍は守さまが継がれるのではないのですか」
「守は弱い。それに表舞台の人間がいてもいいだろう?」
まぁ、大方そんなところだろうと思った。しばらくの沈黙の後、また横にいるやつが口を開く。
「では、司様の腕を試させていただいてもよろしいでしょうか?我らを率いるに適当な御方かどうか」
父は面白そうに笑って承諾した。全く、面倒なことをしやがる。聞きたいことは山積みだし、黒龍の後釜?とか言うやつもやりたくない。だが、兄にはやりたいことも大切な人もいる。こっちのことは俺が引き受けよう。それは前々から決めていたこと。
「手加減はしなくていいな?」
そう言って俺は横にいる男と向き合った。