長い一日の始まり
『ーーは僕が守るから!』
そう言って小指を絡めたあの子はいったい誰だったのだろうか。
実るはずのない約束に、空虚な思いだけが行き場をなくしていた。
はっきりとわかるのは、俺が紛れもない恋心を抱いていたこと。そして、あの子の薬指にはめた紅い指輪。
笑っている顔が見たくて、その姿を暴こうとするたび俺の指は宙を掠めていた。
「......また同じ夢」
双瞳が写したおぼろげな現実世界。呟いた言葉は誰の耳にも届かず冷涼な初夏の空気にとけた。
俺の名前は連城司。普通の高校一年生。けど、この地域では結構俺は有名人だったりする。元武家の連城家は政府関係者となっているが、一般的には極道と呼ばれる組織だ。お陰で不良と呼ばれ、高校では友達がいない。不良と呼ばれるのは日本人離れした白髪にキツい目付きのせいでもあるが、こればかりは仕方ない。
そんな現実にひとつため息をこぼして俺は体を起こした。悲観したところで時間は止まってくれない。
「坊っちゃん?司坊っちゃん?朝でごさいますよ。あら、起きていたの。おはよう」
鉛のような体を動かして布団から抜けると、ハキハキとした女が庄子を遠慮なく開けた。
部屋へ入ったとたんに口調が変わるのは、俺がそうしろと頼んでいるからなのだが、朝から騒がしい。みるみる不機嫌になる俺に、女は無視を決め込んで仕事に取りかかった。
女の名前は蘭華。この家の使用人兼兄貴の恋人である。父には言っていないらしいが、俺的には二人には幸せになってほしいと思っている。
兄の名前は連城守。二十歳の公務員。社会勉強と言うがこのまま俺に極道を任せそうで最近不安になってきた。
「ほら、早く行かないと遅れるわよ?」
蘭華さんが仕事を終え、俺を急かす。
「へいへい...」
俺は適当に返事をして、本日二回目のため息を溢した。