伝説の舞
プロローグ 伝説
江戸時代中期。将軍の一人息子が悪霊にとりつかれると言う事件が起こった。大切な跡取りを守るため、将軍は全国から悪霊払いの巫女を呼び寄せた。しかし、成功者はおらず日に日に衰弱していく息子の姿に将軍は心を痛めていたと言う。
その頃、都はある噂で持ちきりだった。
「なんでも、ある田舎町で悪霊を封印する舞が行われるらしい。しかもその舞は美しく、どんな病も癒すとか」
その噂を聞き付けた将軍はすぐに舞が行われる神社の神主に文を送った。舞を江戸でも興じてはくれないだろうかということだった。
しかし、江戸では良い舞は舞えぬと神主は頑なにそれを拒んだ。将軍は仕方なく田舎に出向き、噂の舞を見た。
するとどうだろう。美しい舞の力に魅せられた息子はたちまち元気を取り戻した。将軍は喜び、神主に願いを問う。
「息子を助けた礼だ。遠慮せず欲しいものを述べよ」
「それでは将軍、私たちのようなものを守ってくれる者を遣わしていただけますか」
神主はそう言って端正な口元を緩めた。
「なんだ、そんなもので良いのか?では、人がついていくよう位も与えよう」
「ありがたき幸せに存じます」
こうして将軍は身分と武家連城家を神主に遣わした。神主は連城家に忠誠を誓わせるため、舞姫と主従の契りを交わさせる。
後にこの舞は伝統ある菱神楽として世に伝わるのであった。ただこの話を伝えられるのは代々舞姫と姫を守る連城家の黒龍のみである。
そんな二家を結ぶのは、主従の契りである深紅の刻印と世界を揺るがしかねない秘密だった。